6章 女装ゲーム実況者の俺、東北へ行く その11

「ワォ、見てください生流サン! 景色がどんどん流れていきマスヨ!」

「まあ、そりゃそうだろ」

「ローテンションデスネ……。エモーションがなくなったらゲーム実況者としてジ・エンドデスヨ」

「だってもう子供じゃないんだし」

「いつだって純粋な子供の心を持っているからこそ、エンターテイナーは輝いて見えるものデス。ほら、スマホから顔を上げて外を見てクダサイヨ」

「今対戦してるから無理」

「ゲーム実況者だからって、何もそんな四六時中ゲームしてなくても……。スマホ依存症はよくないデスヨ」

「スマホ一台あればなんだってできるんだぞ。動画、ゲーム、読書、音楽鑑賞とか色々な」

「せっかく外出してるんデスカラ、リアルタイムで楽しめるものを見マショウヨ! ほらほらフェイスアップデス!」

 やにわに両頬をぱちっと手で挟まれ、無理矢理顔を窓の方へ向かされる。

「おまっ、そういうのは……、おっ?」


 青空の下、ミニチュアのような街が右から現れてあっという間に左へ消えていく。

 高架橋(こうかきょう)から見下ろしているからだろう――そういう高所から景色を眺める機会は多々あるが、こうやって次々移り変わる様をのんびり眺める機会はそうそうない。飛行機の窓からは青空しか見えないし、ジェットコースターは速すぎる。

「まあ、悪くないな。新幹線から眺める景色ってのも」

「デショ、デショウ!」

 夢咲ははしゃいだ様子で立ち上がり、その拍子に膝に乗っけてたキャンディーの袋が床に落ち、バラバラと中の包装紙に入った飴がばらまかれた。


「あ、あわわわ」

「……少しは落ち着けよ」

「そうであるぞ、盟友よ。長たる者、いかなる時も泰然(たいぜん)とした心持ちでなければならぬ」

「でも、元気いっぱいなゆめちゃんはとっても可愛らしくていいなって思うのですよー」

「ククク、確かに一理あるな」

 通路側に座る二人が和(なご)やかに談笑している。

 そんな二人に夢咲は叫ぶ。

「ちょっ、まな子サンにコイズミサン! ひろうの手伝ってクダサイヨー!」


   ●


 なぜ俺達が新幹線に乗っているのか。話は前日に遡(さかのぼ)る。

「生流サン、明日から東北に行きマスヨ」

「え、東北って……なんで?」

「ほら、昨日言ってた精神科医の方への受診。それを明後日(あさって)にしてもらえることになったんデスヨ」

 昼食の席でそんな話が出た。


「ククク、東北か」

 なぜかまだ夢咲家にいたまな子が怪しげな笑いを漏らしだす。

「奇遇であるな。我もちょうど明後日に東北へ赴(おもむ)かねばならぬ使命がある」

「……ああ、そういえばそうデシタネ。しかも偶然、目的地も一緒デスヨ」

「目的地って、どこだよ?」

「大学デスヨ。その方が今非常勤講師として勤めているので、そこにお邪魔させていただくことになってマス」

「まな子ってゲーム実況者兼自称冥王だろ? 大学なんかになんの用事があるんだよ」

「自称ではない。我は正真正銘、冥界を統べ――」

「ほら、これデスヨ、これ」

「ん、なになに?」


 一人勝手に盛り上がっているまな子を他所(よそ)に、俺は夢咲が向けてきたスマホの画面を見やる。

「……『特別セミナー・魔光先生による精神医学とゲーム実況の関係について』? なんだこの地味にラノベチックな題目は」

「いや、『~について』がついてたり、題目が長いだけでラノベって連想するのは間違ってマスカラネ?」

「題名が長いだけで注目されるっていう発想自体、もう数世紀前の話ということであるな」

「まあ、今人気の作品って短いながらも目を引くタイトルが多いからなあ」


 何度か繰り返しうなずいた後、俺は「ん?」と何かひっかかりを覚えた。

 もう一度スマホの画面を見やる。

「…………よくできたコラ画像だな」

「本物デスヨ、フェイクじゃないデス」

「でも、まな子だぞ? コイツが大学の壇上で話すとかどこの異世界の話だよ?」

「この冥王に対する侮辱の数々……、さすがに我が身体に宿る黒魔力が暴走しかねんぞ?」

 額にぶっとい青筋を浮かべている。うわっ、マジでヤバそう。


「ごめんな。冗談だから、そんなに怒るなって」

「まあ、ゲーム実況者が大学で講演をするなんて、そう簡単に信じられマセンヨネ」

「うん、うん、そうだよな」

「我は個人に対する軽蔑の念を感じたがな……」

 ジトッとした白い目を向けられるが、口笛を吹いて誤魔化(ごまか)す。


「あと、今朝コイズミサンからも東北に用事があるという連絡が来マシタノデ、一緒に行くことになりマシタ」

「えっ!? アイツとぉ……?」

「なんデスカ、『えっ!?』って。コイズミサンに失礼デスヨ」

「俺、コイズミってなんか苦手なんだよ……」

「あー……。まあ、独特な方デスカラネ」

「ククク。魔力の波長が合わぬ者というのは、稀(まれ)にいる者よ」

「デスヨネ。……でも、そう言う人が他人じゃなくて……ぞくだったら」

 夢咲はどこか遠い目をして、何か呟いていた。


「どうしたんだ?」

「あっ、いえ。な、なんでもないデスヨ」

 夢咲は両手を振り、妙に明るい笑みを浮かべる。

 向かいの席に座っていたまな子は、どこか気遣わし気な目を彼女に向けていた。




「前日に新幹線の予約が取れるのか……」

「イエス。日本の利便性を甘く見てはいけマセンヨ」

「お前が言ってもどうも説得力がないんだが……」

 目を点にして首を傾げる夢咲。俺はそれ以上は何も言わず、ただ肩を竦(すく)めた。

「四人席……ということは、コイズミ女史も?」

「はい。ご一緒に行こうという話になりマシタ」


 一旦言葉を切り、ちょっと改まった口調で夢咲はまな子に問う。

「ところでまな子サン、宿泊先はもう決まってマスカ?」

「否(いな)。駅前のビジネスホテルでいいかと思っていたが……」

「なら、ミー達と同じ場所に泊(と)まりマセンカ? コイズミサンの実家が宿を経営していらっしゃるそうなんデス」

「ククク、いいだろう。民の生活を知るのもまた一興か」

「いや、ビジネスホテルも民のための施設だからな?」

「じゃあ、コイズミサンにまな子サンも泊まると伝えておきマスネ」

 かくして俺達は、四人で東北の地へ向かうことになった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【次回予告】


真古都「一応な、アワセはん|(作者)も次回予告を書く時はできるだけ次の話に関連のある内容にしようとはしてるらしいんよ」

夢咲「そうだったんデスカ?」

真古都「たとえば前回の駅弁の話も、今回の話に登場させようとしてたみたいやし」

夢咲「ああ、なるほど。でも食事のシーンデマセンデシタケド」

真古都「出発前の場面へ切り替えてしもうたからなあ」

夢咲「結局は無計画の一言に尽きるんデスヨネ」

真古都「麻雀を打つときも、つい必要な牌を切ってしもうたりするらしいからなあ」

夢咲「次回に麻雀が出るか、乞(こ)うご期待デス!」


真古都「次回、『6章 女装ゲーム実況者の俺、東北へ行く その12』や。お楽しみにな」

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