第5話 引取り
梅雨入り直前の六月某日にカブを引き取って来ました。
「だぁぁぁぁぁっ! おっちゃん! このまま乗ってたらマジで死ぬぞっ!」
まぁブレーキが効かないバイクの恐ろしい事恐ろしい事。恐ろしくてギヤを二速までしか入れられませんでした。
「スーパーカブってこんなに命がけで乗る乗り物やったっけ?!」
全く効かない訳じゃないのですが、ブレーキレバーを握ればグリップに着いてしまい、ブレーキペダルは「どこまで踏めるねん!」な状態。当たり屋に出くわしたら事故必至です。出発前にアジャスタを目一杯締めたのにブレーキに手ごたえ踏み応えが全く無いのは恐怖以外何でもありません。しかもミラーが明後日な方向に向いている上に錆びて鏡面を動かせません。フロントシールドは白内障の如く濁っています。前は見えない後は確認できない。ブレーキは効かず走らせればあちこちからガシャガシャ・ジャラジャラと音が聞こえます。
「ひぃぃぃぃぃっ! 死ぬっ!」
スーパーカブは新聞配達に使われる程に静かなバイクのはずです。今回修理を頼まれたカブは排気音こそ静かですが、メカニカルノイズとマフラーからの白煙が恐ろしいほど出ています。もしかすると私はカブによく似ているけれど2ストエンジンなメイトやバーディを預かったではないかと錯覚するくらいです。
「スーパーカブの印象が変わるほど悪い状態です。トラウマものです」
私は牽引と大型自動二輪以外の乗り物は免許の上では乗れます。そんな何でも怖がらず乗る私でも恐怖を感じるほどおっちゃんのスーパーカブはガタガタでした。それでも何とかガシャガシャと音をたて続け、白煙を吐きながら走るカブを京の秘密基地まで乗って帰りました。
「たった数キロの道のりをスーパーカブで走るだけなのに疲労困憊です」
トネ・コーケン先生の所の小熊さんに笑われてしまいそうです。シノさんは何て言うでしょうか? とにかくひどい状態です。大島サイクルのおっちゃんが「買い換えるか?」とでも言いそうな、葛城さんが整備不良で停めそうな状態です。
「ひどい状態のカブを見ていたら、だんだん燃えて来ました……整備士の血が騒ぎます」
京はクルマ・バイク好きです。どちらかと言えば『頭の中で歯車が回ってオイルが巡っているタイプ』です。要するに弄り好きです。走り好きの人は『体にガソリンが流れているタイプ』だそうです。燃えそうですね。
「さぁてと……コイツは手間がかかりそうだぜ……」
カブを車庫に入れてセンタースタンドを立てた途端、空から大粒の雨が降って来ました。この雨は悪い出来事の前触れでしょうか、それとも雨が降る前に帰れたのはラッキーだったとか?
「今週末は日曜日が休みです。早起きしてフロントブレーキの修理から始めます」
さて次回からは作業にかかります。作業したのは二〇二〇年六月十四日(日)です。数回に分けますが、実際に作業をしていたのは一日です。朝から夕方までかけて前後ブレーキ整備・エンジン交換・スプロケット・チェーン交換をした様子をレポートします。
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