第1話 A町にはバイク店が無い

 ここは滋賀県T市A町。琵琶湖の北西部にあるこの町はバイクで通り過ぎる者が多い。京都から福井方面への通過点でしかない寂れた街だが、道の駅があるのでバイク乗りや旅行者にとってはそれなりに知られた町だったりするらしい。


「カブやけどな、タイヤを換えてもらってから変な音がするような気がするんや」


 おっちゃんよ、本を買いに来たのにバイクの相談をされても困る。


「タイヤ交換以前の問題と違う? オイル漏れも酷いし、排気ガスも臭いで」


 まぁそんな相談をされれても仕方がない。買いに来た本が『モトチ〇ンプ』では比較的小さなバイクが好きと思われても仕方がないし、実際に好きだったりする。


「いっぺん本職に診てもらう方がエエんと違う?」

「この辺りでバイクを診てもらうのは何処がエエんやろ?」


 さて、『本職に診てもらえ』とは言ったものの、A町には本格的にバイク修理をする店が無い。市内だと十キロほど離れたI町に一件あるが、営業しているんだか潰れたんだかわからない店だ。次に近いバイク店は間違いなく営業しているが、二十キロ以上離れたO市にある。カブと言えば郵政だが、郵政のカブを修理している店は何処に有るんだろう? Aモータースは辞めたと噂に聞いたから、もしかすると市外の店に出しているのかもしれない。


「I町に〇〇モータースってあるらしいけど、まだやってるんかな?」

「〇〇モータースねぇ、聞いてみますわぁ」


 この時点でおっちゃんのカブはガラガラと音を立てつつ走り回っていました。チェーンの張り方が悪かったのか、スプロケットが減っているのか。エンジンも何となく音が大きい様に思います。


 困ったおっちゃんは何件かのバイク屋に電話したそうです。そして一か月後のモト〇ャンプの発売日が訪れました。

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