第12話「舐めるな、黒幕! 林佐渡」

 俺、雷同太郎が転生したアーサーと、マッケンジー公爵のふたりは……

 馬に乗ったままアルカディア王国王都ブリタニアの街中を一気に駆け抜け、王宮へ到着した。


開門かいも~ん!!! アーサー第一王子と他1名、帰還きか~ん!!!」

 

 年齢に似合わないマッケンジー公爵の、張りのある大音声。

 慌てた門番が、王宮の正門を力一杯左右に押し開く。


「も、も、門を開けろ~!」

   

 きしむ音と共に門が開けられ……

 俺達は、馬を勢いよく城内へ乗り入れる。

 

 マッケンジー公爵は、俺に出来る限り急ぐよう促す。


「若! 奥方様がず~っとお待ちかねです。ささ早く、お支度を」

  

「で、あるか!」


 俺は信長の口癖を真似て、言い放つ。

 

 ああ、くううう~。

 このセリフ、ず~うっとず~うっと言ってみたかったから……

 すっごく気持ちが良い!


 と、うっとり自己陶酔じことうすいしていたら、


「若、お急ぎ下さい!」

 

 再びマッケンジー公爵から促された俺は、現実の世界へと戻り……

 王宮警護の騎士に馬を預け、自室へ向かった。

 

 ……部屋にはアーサー付きの侍女達がスタンバイしていた。

 

 着替えなどは自分でせず彼女達にして貰うというのが習慣らしい。

 扉を開けると、いきなり反応して襲いかかる侍女達

 ―――四方八方から手が伸びる。


 うわ!

 やめて、エッチ。


 など言う間もなく、俺はあっという間に外出用の服を脱がされ、

 身体を拭かれ、香を塗りこめられた。

 まるで、ロボットに組み立てられるどこぞの商品のようである。

 

 つらつら考えていると……

 侍女達から謁見用の服が何種類か提示され、

 俺がその『ひとつ』を選ぶと、手早く着せられた。

 

 服を着終えると他の用意も整えて、

 俺はすぐ謁見用となる王の間へ向かったのである。

 

 すると同じように手早く用意をしたらしく、

 着替えたマッケンジー公爵がぴたりと付き従って来た。


 部屋の入り口に居た侍従長が俺に気付くと……

 先ほどのマッケンジー公爵に負けないくらいの大音声を張り上げた。


「アルカディア王国第一王子、アーサー・バンドラゴン様の御成おなり~」


 俺が王の間を見回すと、アーサー……つまり俺の母王妃アドリアナが居り、

 安堵する顔が見えた。

 何故か、弟のコンラッド、妹のエリザベスの姿はない。


 そしてアドリアナのかたわらに控えた、宰相ガマリエル・オライリーの忌々しげな表情……

  

 ロキがくれたチートな身体だが、頑健さと膂力の異常な高さに加え、

 視力、聴力も常人を遥かに超えていた。

 

 このオライリーが……

 俺が無事なのを見て、

 忌々し気に舌打ちする音までが聞こえて来た。

 この舌打ちの理由を、俺はちゃんと知っている。

 そう、こいつが先ほどの襲撃事件の『黒幕』なのだ。 


 宰相オライリーは、53歳。

 爵位は同じ公爵位なのだが、家格はマッケンジー家より上。

 それ故マッケンジー公爵よりも全然若いのだが、王国宰相を務めている。


 俺には分かっている。

 アーサーから教えて貰っている。

 こいつが、反アーサー派の筆頭なのだと。

 残念ながら、こいつが悪行を犯している証拠は全くないそうだ。

 

 しかし、弟コンラッドを担ぎ、アーサーの廃嫡を狙っているらしい。

 普段から、何かにつけてアーサーには反抗的であり、

 まともに従った試しがない。


 まあ『元のアーサー』が超が付く草食系で、生粋の騎士でもあるオライリーが、「軟弱者め」と完全に舐めているのが原因である。

 

 でも……

 今やアーサーの中身が、硬派な信長仕様の俺ブタローに変わったと知ったら、

 びっくり仰天するに違いない。


 ……オライリーが「のしのし」歩き近付いて来た。

 無理に作った笑顔がバレバレだと、ひと目で分かる。


「これはこれは、アーサー王子。随分とお早いご帰還でしたな」

 

 先ほどの傲慢な態度などおくびにも出さずに、

 オライリーは卑屈に揉み手をしていた。

 

 信長ワールドで言えば、素知らぬ顔をして陰謀を画策した、

 織田家古参の武将、林佐渡であろうか?

 

 アーサーから受け取った知識でも相当に表裏のある男だそうだし、さらに嫌味まで、かまして来た。

 なので、俺は少々締め上げてやる事にした。

 

 ん、宰相を締め上げてやる?

 何故だ? 

 こんなに強気になるなんて、いつもの小心で八方美人な雷同太郎はどうした?

 やはり「信長の性格に変えてやった」というロキの言葉は、

 偽りではなさそうだ。


 そして、俺の口から出る言葉にまったく容赦はなかった。


「何だと? 早い帰還?」


「はい、さようで、アーサー様」


「それは嫌味か、宰相! 一体誰に向かってものを言っておるのか?」


「は!?」


 いつもの、穏やかで天然なアーサー王子とは全く違った切り返し。

 対して、オライリーは想定外、完全に戸惑ってしまっている。


 この戸惑いから、オライリーに『隙』が生まれた。

 瞬間!

 ロキのくれた『サトリ』の能力がさく裂する。

 奴の『心の声』がはっきりと聞こえて来たのだ。。

 

 くそ!

 奴ら、へましやがって!

 りそこなったのか!

 青びょうたんの若造めぇ、悪運が強い奴だ!

 くそ生意気な!

 

 いや、待てよ……

 まさか、屋敷に隠してある連判状を見られたのか?

 もしくは暗殺計画がばれたのか……

 

 心の声は更に続いていた……

 

 俺の暗殺計画以外にも、汚職等々、

 バレたらいろいろヤバイものがあるという、危惧の感情が噴き出ている。


 こいつめ!

 やはり……とんでもない悪党、否、外道だ。

 

 もう容赦はしない!

 まずは、先ほど襲って来た首領に白状させ、証人とする。

 オライリーが直接依頼はしていないようだが、

 仲介した奴をたどっていけば、芋づる式である。


 次にこいつの屋敷のガサ入れを行う。

 動かぬ証拠を押さてしまえば、こっちのもの。

 

「おい、宰相! もう一度言ってみろ! 誰に、お早いご帰還と言っておる! 一体誰にだ?」


「アーサー王子、お、お戯れを……、私は別に」


「たわけ! 俺はな、そんなくだらない冗談が嫌いだ。今度つまらぬ事を抜かしたら、容赦なく、すぱんと、そっ首刎ねてやる」


「ひっ!」


 過激な言葉をいう自分でも吃驚した俺は、恐れおののくオライリーを放置して、アドリアナへ向き直った。


「母上、約束の時間に遅れて失礼した」


 片やいつもと大幅に違うアーサーの物言いを聞いて、

 アドリアナは吃驚している。


「え、ええ……」


 口をポカンと開けたアドリアナ。

 微笑んだ俺は再び声を張り上げる。


「オライリー!」


 いきなり呼ばれた? みたいな反応で、オライリーは相変わらず戸惑っている。


「?」


「何をぼうっとしておる! あるじが呼んだのだ、すぐ返事を致せ!」


「は、はは!」


「耳をかっぽじって良く聞けぃ! 嫁に会った後、お前に話がある。暫し待機しておれっ!」


「は? で、でも私には大事な公務が……」


 ああ、やっぱりこいつ……逆らった。

 さっき、心を読んだ時に分かった。

 今日この後は、オライリーにさしたる公務はない。

 つまり真っ赤な嘘をついているのだ。


 だから、俺ははっきりと告げてやる。


「公務? この俺と話す以上に大事な公務などあるものかっ。すぐ全てキャンセルしろっ!」


「で、ですが……」


「ですが? この俺に二度、同じ事を言わせるのか? オライリー?」


「はい、国の為の大事な公務ですので……いきなり時間を作れと仰られても」


 まだ嘘を付くか?

 本音が見える。

 軟弱者の俺なんかとは、口もききたくないという本音が……


 ふん!

 俺は……完全に怒ったぞ。

 ちなみに、信長は……家臣に舐められるのが大嫌いなのである。


「…………」


 俺は黙って、つかつかとオライリーに近づいた。

 何をされるのか、全く分からないオライリーは、「へ?」という表情をしていた。


 瞬間!


 どぐあっ!

 

 重い肉を叩く音が響き、俺の振るった拳をまともに顔へ受け、

 オライリーは軽々と吹っ飛んでいたのである。

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