16

「どうした?食べないのか?」


なかなか手を出さない私に、咲耶姫様が不思議そうな顔をして尋ねた。


「いや、だってお供え物ですよね。私が食べてもいいのでしょうか?」


「いいのだ。私がいいと言うのだから。それに一人では食べきれぬ。」


さも当たり前のように言う。

この方が山の神様で、路頭に迷う私を助けてくれて、そしてお供え物のお菓子を提供してくれている。


どんな現実?

いや、もしかして夢とか?

死語の世界とか?


訳のわからないシチュエーションに、私は戸惑いを隠せない。


「では、私も一緒に食べよう。それでどうだ?」


そう言うと、咲耶姫様はポテチを一枚口に放り込んだ。パリッと良い音がする。そしてチョコの袋も封を開けた。


「甘いものもほしい。」


ふわりとチョコの甘い香りが鼻を抜ける。

食欲が刺激されて私は唾をゴクリと飲んだ。


「えっと、じゃあいただきます。」


意を決してお菓子に手を伸ばすと、咲耶姫様は満足そうに微笑んだ。

いちいち綺麗でドキッとしてしまう。


神様って綺麗なんだな。。。


ほうっと見とれていると、咲耶姫様は別のポテチも封を開ける。


「これは何の味だろうか?」


「ゆず塩って書いてありますね。」


「うん、旨い。お前も食べてみろ。」


「え?はい、いただきます。」


私の食べる姿を見て、咲耶姫様は優しく頬笑む。


「これも食べてみるか?」


「あ、ちょっと、そんなに食べれませんって。」


次々にお菓子を開けようとする咲耶姫様に、私は慌てて待ったをかけた。止めないとあれもこれも味見をしそうだ。ポテチ二袋とチョコレートも二人で食べきれるか心配なのに。そんな気を遣っていただかなくともっ。


そんな気さくな咲耶姫様の魅力に、私はどんどん引き込まれていくようだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る