第68話 ニンジャ・ライトニング


 埋まり切った彼らを一瞥すらせずに、小雨の中を勇者パーティは突き進んでいく。

 邪魔者は排除した。魔物の気配もない。そう急ぐ必要もないのだが、厄介なフォン達を始末できた喜びが、足に乗っかっているかのように、一同は走っている。


「……残念だね。あの田舎者の女と生き埋めで決着ってのは。いつか私が、この拳でブチ殺してやろうと思ってたのに」


「いいじゃん、それくらいさ! 帰りがけにでもあいつらのブサイクな死に顔でも見てやったら、ちょっとは気晴らしになると思うよ、きゃはは!」


 サラとジャスミンは彼らをひたすら鬱陶しい連中としか思っていなかったようで、生き埋めという末路を嗤うばかり。こう見えても、世間的にはまだクールな武闘家と可愛らしい一流剣士で通っているのに、彼女達のファンが下卑た顔を見たら卒倒するだろう。


「残念というなら、私もよ。フォンはまだ使い道があったかもしれないのに……」


 マリィはマリィで、小柄で温和な性格の持ち主のはずが、パーティだけしかいない時にはすっかり狡猾な一面しか見せなくなっていた。揺れる栗毛に愛らしさはなく、フォンを気にかけているのも、まだ利用価値があったのではないかと思っているからだ。


「仕方ねえだろ、フォンはともかく周りの奴が邪魔なんだよ。あいつらがいる限り、フォンを引き戻そうとするよか、ブチ殺してやった方が俺達のためだぜ」


 そんなパーティのリーダーなのだから、クラークが世間一般的に抱かれているナイスガイなはずがない。歯を見せて笑う今の彼は、下劣の具現と言ってもいいだろう。

 批難されて然るべきはずの彼を仲間は持ち上げるのだから、自浄など到底望めない。


「そうだよ、フォンだってマリィの魔法で動けなくなってたし、どうせたいしたことないって! 兄ちゃん一人いれば大丈夫だよねーっ!」


「俺を頼ってくれると嬉しいな、ジャスミン!」


「あんたほど頼れるリーダーはいないよ、クラーク! あっははは!」


 げらげらと爆笑するクラークだが、彼らの中で唯一、パトリスだけが浮かない表情をしていた。重い鎧を揺らしながら走る彼女は、つい、ぽつりと呟いた。


「……これで、本当に良かったのでしょうか」


 何気ない心中の漏れだが、先行するサラ達にはしっかりと聞こえていたようだ。


「パトリス、あんた何言ってんだ!?」


「もしかして、あいつらの肩でも持つつもり!?」


 振り向いた二人に怒鳴りつけられたパトリスは、半ば涙目で言い訳をする。


「あ、い、いえ! せっかく食事まで頂いたのに、生き埋めになんて……」


 足を止めそうになったパトリスを庇うように、後ろのマリィが肩を叩いて囁いた。


「食事は向こうが勝手に提供してくれたのよ、気にする必要はないわ」


 庇う、慰めるというよりは、洗脳と呼んだ方が良いだろうが。


「彼らがいれば、おいおい必ず私達の障害になり得るわ。他のパーティだって、表向きでどれほどいい顔をしていても、裏で他の冒険者に何をしているか……そうでもしなければ生きていけないのが、冒険者稼業というものなのよ」


「そ、そういうものなのでしょうか……」


 彼女は純朴で優しい。だからこそ、この辺りでしっかり勇者パーティに馴染ませておかないといけない。他の面子は少なくとも、彼女に余計な考えを持たせたくはなかった。

 クラークもマリィの話に乗って、パトリスを自分色に染め上げようとした時だった。


「そういうもんなんだよ。パトリスも現実を見て……止まれ!」


 先頭を走るクラークが急に止まった刹那、彼らが進もうとしている直ぐ前方に、雷が落ちる轟音が鳴り響いた。光も同時に瞬き、木々が何本も砕けた音がした。


「わっ!? なに、何なの!?」


 勇者に続いて武闘家、剣士、ナイトと続き、最後に魔法使いが足を止めた。


「今の音……しかも、光が近づいて来やがる! お前ら、構えろ!」


 ジャスミンが一対の剣を鞘から抜き、パトリスが大きな盾を担いで四人の前に出る。

 その間にも、雷が同じテンポで降り、見えない何かの存在を一向に伝えている。雨でぬれた銀髪をかき上げる隣で、ジャスミンが赤紫の前髪が額にくっつくのも構わず、同じ周期で光り出す闇の奥を、じっと見つめる。


「雷!? 街で聞いた噂は本当だったんだ、雷を操るって言ってたのは!」


 少女の言う通り、雷はある生物を伴って近づいていた。岩と樹木の間をすり抜けるように、ゆっくりとやって来た魔物は金色の毛並みを持ち、悠然と姿を現した。


「……向こうの方から、出向いて来たのね」


 神々しさすら感じる姿に、マリィは杖をぎゅっと握り締め、パトリスは反射的に盾を自分の正面に置く。本能的な防御動作を見ても、金色の鬣を靡かせる魔物は動じない。

 彼女の予想は当たっている。山で暴れ放題、騒ぎ放題の連中を罰する神の使いであるかのように、その魔物は勇者パーティを睨みつけているのだ。

 人より一回りほど大きく、金色の瞳と白銀の牙を唸らせる、黄金の獅子。

 紛れもなく、マッツォ卿が討伐を依頼した魔物、『黄金獅子』に違いない。


「お望み通りぶっ殺してやるぜ、黄金獅子……!」


 剣を構えたクラークは、自身が持つ剣技と魔法の力を持ち、勇者のスペックを以ってすれば、凡そ敵わない相手などいないと確信していた。仲間達も同様だ。


 ――ツインヘッドブル討伐の失敗を覚えていれば、こんな慢心はしなかっただろう。

 油断した彼らの実力など、怒り狂う伝説の魔物の前では意味がないとも。

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