第9話 上位互換

 一条ハジメ視点 その2


 入学式当日に、とんでもないイケメン先輩がいる。と女子が噂していた。


 その人を初めて見た時に、こんなに男として負けを感じたのは生まれて初めての経験だった。

 この人には一生敵わない。悔しい…だけど見ていたい。というこの思いがなんなのか、自分でもよくわからなかった。


「完全に俺の上位互換じゃねえか…」


 そう思うのも無理はない。

 ルックスは完璧。スタイルの良さもモデル級で高校2年生と言われても信じられない。『ただそこにいる』ってだけで女子の目線を全て持っていく程の存在感を放っている。

 だが、浮ついた噂は全然入ってこなかった。むしろ彼女がいないという噂の方が多いくらいだ。


(そんな事があるのか?あんなにモテてて、彼女がいない?)

 俺からしたらわけがわからなかった。普通なら彼女の一人や二人でも作って遊んで、自慢して、モテない男達が浴びせる嫉妬の目線に対して優越感に浸る…ってのがモテる男として普通じゃないのか?

 だがそんなイケメン先輩の噂に全く聞き耳をたてない人がいた。


 それが白金ミウだ。


 そんな彼女にもっと惹かれていった。あの先輩に見向きもしない、そんな彼女が不思議でますます気に入って、俺の女にしたい。という思いは強くなっていった。


 長年の経験によって蓄積した俺自信に対する絶対的な自信。クラスの女子はほとんど俺の事を密かに好きと思っているという考え。今回もうまくいくと思っていた。



 だが白金ミウは一条ハジメのその絶対的な自信をバラバラに砕け散らした。


 「あなた誰ですか?」というたった一言によって。



 その瞬間俺は白金ミウを絶対に俺の女にしてやる!と決意した。


 どんな手をつかってでも…


 それから毎日俺は白金ミウを見ていた。いや気付いたら見ている。と言ったほうが良いだろう。


 あれから俺はどうやったら白金ミウと付き合えるかという事ばかり考えていた。学校では特に白金ミウに対して新たな発見はなかったからだ。




 放課後




 俺はクラスの仲の良い奴らと帰っていた


 そんな時前方に白金ミウの姿が見えた。


 一緒に帰っているうちの一人が


 「ミウちゃんってかわいいよなぁ〜俺あんな子と付き合いてえよ」

 「あぁ俺もだ…一緒にデートして、手つないで・・・キスなんかしちゃったりしてな!」

「「ハハハハ」」


 のんきに笑い合う奴ら。


(ふざけんな…この俺が振られたんだ。お前らなんかに付き合えるわけねーだろ)


 なんて考えていると、前方の白金ミウがいる曲がり角からあのイケメン先輩が急に現れた。


 そして白金ミウに話しかけ、一緒に歩いている。


「うお!あの先輩告白するんじゃね?俺らナイスタイミングで通りかかったな!」


「告…白…?」


 あのイケメン先輩ですら目をつけていたのか?


 どことなく嬉しく感じていた。あの先輩と同じ価値観で、同じ女性に目をつけていた俺が正しく思えた。


 だが、一緒に帰っているもう一人が、衝撃の一言を放った。


「そういえば俺ら中学違うから知らなかったけど、あの2人兄妹だぞ」


「「えっ!!!!」」


「あの先輩は白金アキラ先輩で白金ミウの兄貴だ。俺も今日知ってびっくりしたんだ。2人はもうとっくに知ってると思ってたわ」


 知らなかった!まさか兄妹!?


「・・・」


 驚愕の事実だった。あのイケメン先輩が白金ミウの兄貴…


 俺の心に広がる不思議な気持ち。なんだこの気持は。白金ミウとますます付き合いたい。

 そんな事を考えていたら十字路で2人が別々の方向へ行ってしまった。左に白金ミウが行き、住宅街へ続く道だ。右にアキラ先輩が行き、駅近くの商店街へ続く道へと行った。


 俺らは駅へ行くので真っ直ぐ進むのだが…

 俺たちも十字路に差し掛かった所で。


「すまんん。俺用事あるんだった。先に帰っててくれ」

「え?お、おう。また明日なハジメ」

「じゃあまた明日なー」

「すまんな。また明日」


 そう言って俺は白金アキラの後をついていった…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る