イサの、お守りはつらいよ
家つくりスキルで異世界を生き延びろ4巻発売記念として
SS第二弾
(四章まで読んでいただけてたら問題ないです)
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イサは小鳥の姿をした妖精だ。多くの妖精は動物型を取る。また大抵は小さくて可愛い。だから妖精は人間に愛されているし、大事にしてもらえる。
妖精は精霊にも可愛がられた。彼等の眷属という扱いだからだ。
眷属といっても難しい仕事をさせられるわけではない。「一緒に遊びに行こう」と言われて「はーい」と付いていく関係だ。舎弟に近いだろうか。いや「仲の良い先輩後輩」程度かもしれない。少なくともイサにとって、精霊はそんな存在だった。
そのため、基本的に妖精のイサはふわふわっと生きているし、生きていけた。
もちろん人間の中には悪い者もいて、妖精という珍しい生き物を捕まえて売るという話を聞いたことがある。のんびり屋が多い妖精も十分に気を付けていた。幸い、妖精には生き物の善悪を判断する機能があった。といっても「この人は大丈夫」「この人は嫌」ぐらいのものだけれど。
それでもセンサーがあるのは大事だ。しかも精霊相手にだって使える。
精霊には人間のような悪人はいない。いないが、素直で純粋だからこそ、たちの悪い部分があった。だから「この精霊は煽てた方がいいかな?」といった程度にセンサーが働く。
たとえば、ハパには上位精霊ならではの偉ぶったところがある。ハパに悪気はない。ただただ「我はすごいだろう!」と言いたいだけである。ハパからすればイサは後輩というより部下みたいな存在だ。なので「すごいっすね!」と褒めておけば済む。
とはいえ、偉い精霊が率先して人間社会のあれこれを調べているのだ、近くにいれば手助けするのが妖精の務め。なにしろイサは前世が人間で、社会人として働き始めた下っ端の経験がある。だから、ついつい先輩のフォローをしてしまう。特に人間社会について知らない先輩だ。元人間として教えてあげるのは構わない。
せっかく転生してのんびり過ごそうと思っていたけれど、生きていればそういうこともある。それはいいのだ。
イサはなんだかんだで上手くセンサーを使って世渡りしていたし、更にクリスという同じ転生者の少女の保護下にあった。
――多少の騒動はあったけれど、それは生きる上でのスパイスのようなものだ。
そう思っていた。
問題はククリが仲間になってから始まった。
まだ生まれて間もない精霊のククリが、その言動を愛されるのは理解できる。蓑虫そのままの形に糸みたいな手足があるへんてこりんだけど、クリスは変わっている女の子だから面白がる気持ちも分かった。
ちょっぴり嫉妬めいた思いが芽生えたのも確かだけれど、人生の先輩だからとイサは堂々としていた。大人の対応というやつだ。そのあたりはプルピを見習った。小さなドワーフのような姿のプルピはクリス率いる仲間の中で一番精神的に大人だった。彼は新しく仲間になった小さな精霊に嫉妬もせず、よくよく面倒を見ていた。
同じ精霊としての在り方を教えていたようだ。
妖精であるイサには関係ない。そう思って、クリスに可愛がられながらのんびり過ごしていた。
ところがである。
ククリは無邪気な精霊そのままに、あちこちで騒動を起こした。転移ができるという高等技術を遠慮無く発揮したのだ。
おかげでクリスが危険だと判断し、その対応策としてイサに預ける。
「ピルルッ?」
クリスは毎回のように「お願いイサ」と子守を任せてきた。
ククリに良いところを見せようと乗せてあげたのも徒になった。飛行をククリが気に入ってしまって、イサの背に乗って飛べと要求するようになったのだ。
イサだって喜ばれたら嬉しいから乗せてあげるのは構わない。
とはいえ、突然の転移を恐れて何度も対応を丸投げされるのは……。
「いちゃ、ぶーん」
「ピルル……」
「ぶーん、たのち!」
「ピルゥ」
「くく、ぴゅっ、ちゅる?」
「ピピピッ?」
と、慌てて止めること、数えきれず。
なにしろ、妖精のイサは人間の目には映る。精霊が視える者は少ない。そのため、精霊が転移しようとも問題はない。けれど、空を飛ぶ小鳥が突然消えたらどうか。
絶対に騒がれる。
だからイサは宥め賺してククリを落ち着かせるしかなかった。そんな苦労をクリスたちは知らないのだ。知らないから平気で頼んでくる。
「イサ、ごめんね! ククリを乗せてあげて。ライダーごっこしてる時は静かだから」
「ピルゥ」
でも頼まれると断れない。保護してくれたクリスに感謝しているのもあるけれど、ようはイサ自身が彼女を好きなのだ。あと、イサはたぶん苦労性なのだと思う。ついつい心配になってフォローするのだから。
「ピルル」
「わー、イサ、本当にありがと! 大好き!」
気軽なクリスの「大好き」だけれど、まあいいかと思う。何故ならククリも「くく、いちゃ、ちゅき」だそうだからだ。お守りは大変だけれど、イサもなんだかんだで楽しんでいる。
「ピルゥ」
そうして、今日も今日とてイサの子守は続くのだった。
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