【急募】一国の姫の婿になってくださる殿方
最早無白
第一章【悲報】一国の姫の力に屈して転移する休日
第1話 転移
日曜日。
高校二年生の僕、
そう、ベッドで蠢いていても誰にも怒られない。控えめに言って最高である。
とはいっても今が何時かというのは気になる。なんとか上体を起こし時計を見る。『負荷かかってますよ』と腰が軋む。短針は六、長針も六。なんか損した気分。
空でも見れば気分が晴れるか。上手そうで上手くないダブルミーニングを脳で繰り出しながらカーテンに手をかけ外をチラ見。ま、眩しすぎる……。
「遊びの約束もしてないしなぁ」
『してない』ではなく、『できない』なんだけどね。独りで強がってみたけどやるんじゃなかった。思ったより心にダメージ。太陽の陽は陽キャの陽。現実ともども直視してはダメなのである。
それにベッドが僕を呼んでいるのだ。深い眠りへいざ腐海へ。肉体よりも精神の方が蝕まれていく、空に月が出ていないのに眠りへと堕ちる背徳感。それは今までに犯した過ちも消し去ってくれそうで。う~ん、嫌いじゃないわ。
しばらくすると、瞼越しに光が照り付ける感覚。ファっとして目が覚めると桃源郷を思わせる膨らみ。そして後頭部にも確かな感触。やらかい。ひたすらにやらかい。
あー……うん、夢だな。これ触手かなんかでしょ。
「おや、いらっしゃいましたわ!」
「「「「「こ、この御方が!?」」」」」
怖い。声の主が多すぎる。このぷにぷにがソプラノで周りにバスが四、五人ほどいらっしゃる。Lサイズのそれに見え隠れする深紅の眼。それに映えるは、白く麗しい、透き通るような柔肌。身体中蕩けながら、考えを巡らせる。そして一つの仮説をここに。
どうやら僕は女型の何かに膝枕的なことをされている可能性がある……!?!?
「ええええええ!?!? なに!? なにこれ!?!?」
事案を一刻も早く避けたいという理性か、はたまた未知から逃れたいという本能か。
咄嗟にその声から遠ざかるため思い切り跳ねた。しかしそれがまずかった。
もにゅっ。
あ。これやったわ。顔全体がもにゅってなったよもにゅって。その柔らかな胸部の所有者は一人の人間を『やらかした』と思わせるには十分すぎるほどの反応を見せてくれたし、シャウトに関してはもはや右に出る者はいない。
「いっ! いやぁぁぁぁぁぁっ!!」
拳的な硬度のものが振り下ろされ、地に伏せられてしまう。これはこれでいい。
この女型、やりおる。数秒前までは柔肌を思わせていた綺麗な物体を思わせない鮮やかなギャップ萌えを見せてくれたぞ。まあなんと手厚い歓迎であるか。
「いたっ……」
こっちのセリフじゃい。
いや強くは言えないんだけど、知らない人を膝枕するのが悪いと思うんですよね。
「す、すみません……私がここへお招きしたというのに、少々驚いてしまいまして……」
掌々の間違いじゃないんですかね。これで少々なら本格的に驚いたらこの子はどうなってしまうのか。しかしアワアワしてる姿がかわいいからついつい許してしまう。
「だ、大丈夫です……けど……」
なんともないアピール、出来てるかな?
この子、これで罪悪感が少しでも減ればいいんだけど……。
「よかった……いくら儀式とはいえ、膝枕でございますからね……」
「ぎ、儀式?」
なんの儀式だよ? もしやとは思ったけど部屋じゃないどこかにいるな。周りにおじいちゃんわんさかいるし。
「はい。この国の危機を救っていただきたく、こことは違う世界にいらっしゃるあなたを呼び寄せた次第でございます」
「なぜぼ……私が危機に瀕している国を救えるとお思いになったのでしょうか?」
おじいちゃんズが怪訝な顔をしまくっているので咄嗟に一人称を敬体に変える。そしてどうせ夢なら聞けることはなんでも聞いておく。意外な要素が目覚めへの糸口になるかもしれない。
「その……あなたを選りすぐったわけではないのです。我が王家に代々伝わる『天』の力を行使して、別世界でこの国を救えるに値する御方をランダムで呼び寄せる、といったものとなっております」
要は、僕はなぜか『一国を救える』とかいうガバガバ判定に引っかかった……と。
この時点で疑問符しか頭にない。昨日観たテレビにそんなファンキーな内容の番組あったかな?
「な、何かの間違いではないですかね? 私にはそのような大層な力などはございません。儀式をやり直してみては……」
「それは不可能です。天の力を行使できるのは婚姻をしていない姫のみ、かつ生涯に一度しか行使できないのです」
一度きりのチャンスをパーにしてしまってすみませぇぇぇん!! ――とは立場的に言えないので、平静を装いながら言葉を返す。
「そうなんですね。だからもうやり直しは効かない、と。では、私はどうすれば元の世界に戻れるのでしょうか?」
「この国を救ってくださることで天から『役目を果たした』とみなされ、自動的に元の世界へと戻ることが可能です」
とりあえず『天』とやらがいろいろと頑張ってくれるのはわかった。もうそいつ一人でいいんじゃないかな。
あと薄々感じていたが、この状況を夢の中で作り出せるほど、僕は想像力や創造力が豊かではない。もしかしたら本当にトリップしてしまったのかもしれない。
このまま元の世界へ帰れなくなるなんてことが起こってしまったら、高卒はおろか一生行方不明として扱われてなんかもう西場麻理の人生そのものがぐちゃぐちゃになってしまう。失いつつある語彙力を取り戻すためにも、一刻も早く帰らねば。
そうと決まれば、夢を覚ますためではなく、天に認められるための情報収集を開始。
「では、あなた方の手助けを精一杯させていただきます。そして、私を呼び寄せるということで、この国は何らかの危機に瀕していると推測できますが、具体的にはどのような面で困窮されているのですか?」
「この国は現在、当代である女王様とこの姫しか王家の血筋を引いていないのです」
「つまり姫に婿を設けない限り、いずれ国の象徴である王を立てられずに国が瓦解してしまう、という訳でございます」
おじいちゃんズの二人が簡潔に説明する。
え? 跡継ぎ? いやこの手の異世界モノって『戦闘したり特殊な力で生き抜く!』っていうイメージが強かったから、思ったより拍子抜けな感じがすごい。
「と、いうことは……?」
どういうことなんだ……??
「姫に、そしてこの国に見合う素敵な男性をあなたに見繕ってもらいたく存じます!」
「は、はい……」
選択肢は一つしかないので、二つ返事でこう答えるしかないのだ――。
という訳で、姫の婚活をサポートすることになりました。早く帰りたいです。
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