鬼桜


枯れ井戸の底

釣瓶は落ちて


滑車は軋み

空回る


僅かに覗く

襖越し


けたたましくも

笑う人形


歪な色に

錆びた錠前


枷に繋ぎて

座敷牢


ついに私は

気が触れたのだ


振り子時計の

音は谺し


目眩を誘い

呼吸を乱す


朦朧とする

意識はやがて


夢と現の

境を越える


乖離してゆく

自画像の


その片割れが

囁いている


コワレテシマエコワレテシマエ

コワレテシマエコワシテシマエ

コワレテシマエコワレテシマエ

コワレテシマエコロシテシマエ


凌辱された

精神は


今際の際に

裏返る


喉に貼り付く

畏怖すらも


貪る程の

妙なる甘美


合わせ鏡の

無限回廊


自我の破綻の

成れの果て


やがて彼岸の

修羅となる


無慈悲の刃

携えて


神も仏も

斬り捨てん


血の紅は

衣を染めて


骸を土に

埋めたれば


鬼を従え

黄泉比良坂


不断桜の

狂いとならん

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