【始まり始まり】06
それからは何事もなくクロスバイクに乗って帰宅した後に段ボール群の中から父さんに頼まれた赤いファイルを取り出して先程まで教材を入れていた鞄に入れ替える様にして入れた後に送ってきた住所の場所に直行した。
「それにしても本当変わってるよな」
視界に映る光景は以前いた場所とあまりにも風変わりしていて新鮮でふと言葉が漏れてしまう。
右を向けば和の色が強めな住宅が密集していて、左を向けば欧風な住宅が密集していてまるで僕が奔るこの道路が境界線となって二つの世界が混在しているように思えてくる。
霧結市、今思えば面白い名称だ。霧というそこにあると認識ができるだけの自然の現象を結ぼうだなんて無茶を絵に描いたような言葉を昔の市長は名称にするなんてな。
「お、あれかな？」
自転車を奔らせる事二十分。
目的地の看板が見えてきた。
【大城探偵事務所】
欧風な建物の二階にその事務所は構えてあった。
その事務所は僕、大城 白野の父さんである
「お邪魔しま～す」
自転車を駐車場の脇に止めて建物の外にある螺旋階段を上って二階にある事務所のドアを開ける。
「よお白野！遅かったな！」
力のこもった元気すぎる声で父さんは前方の受付の椅子から立ち上がって近づいてくる。
「はいこれ、ご注文のファイル」
鞄から頼まれていたファイルを取り出して父さんに渡す。
「おぉ！これこれ！ありがとうな！」
中身をパラパラと流し見ながら感謝の言葉を述べて元居た受付の椅子に座りなおした。
初めて事務所に来たが以前の事務所とほとんど変わらな雰囲気だった。
「変わらない良さってものがあるんだよ、白野も歳をとったら分かるさ！」
「いつもながら僕の心を勝手に読まないでいただきたい！」
都度あるごとに父さんは全てを見透かしたかのように僕の考えてることを読んでは言う前に答えてくる。
「そうだ、みーちゃんから聞いたぞ！お前が昨日殺人事件に遭遇したって」
「え、母さんが？」
「そうそう、それで何か情報が欲しいって」
「そうなんだ・・・・・・母さん僕の言った事信じてくれるてるのか」
僕の言葉に反応して父さんは椅子をこちらに向けて
「みーちゃんはお前の言った事なら全て信じるぞ。昔お前が宇宙人を見たって言った時も本当に信じてた上にもう一度宇宙人を見に行きたいって言ったお前の為に皆で山奥に一ヶ月間籠ったもんだ。懐かしいなぁ・・・・・・」
「ただの過保護じゃねえか！」
これじゃあ母さんが信じてくれているって思えないぞ・・・・・・
「そんで俺は今、その事件（仮）について調べているんだが―――さっぱりだ！」
先程渡した赤いファイルを読み終えたのか頭上に放り投げながら大きく伸びをした。
「手慣れた行動から鑑みて常習犯の可能性を探るために今月の犯罪件数を調べてみたんだが今のところこの霧結市での犯罪件数は今月まだ零なんだ。どんなに調べても一にはならない、こんなの初めてだぜ、殺人事件だけじゃなく他の痴漢や窃盗といったのも一切無い、平和を具現化したかのような都市だよここは・・・・・・まったく、嫌になっちゃうねえ」
重い声音で唸る様に言った。
この霧結市は面積にして約五十平方キロメートル、小さくなければ大きくもない普通ぐらいの面積をしている筈だ。
そんな霧結市の犯罪件数が今月、五月十六日水曜日の現在、犯罪件数は零。
嘘の様な現状を聞いて疑問に思うが父さんの職業柄嘘情報を仕入れる事はないだろうし本当なのだろう。
「さてと、これから白野はどうする？」
気分を切り替えたのか平然と父さんは尋ねてきた。
「どうするって？」
「ご飯食べていくか？それとも帰るか？今日は俺もみーちゃんも仕事で家に帰ってこれないぞ？」
そう言えばそうだった。
ポケットからスマホを取り出して時刻を見る。
十八時二十分
「十八時か――遅い時間だし父さんが良ければ」
「オッケー、なら行こうか！」
地面に落ちているファイルをそのままにして受付から出てきた父さんは先に外に出るよう言った後に奥にある仕事部屋で外出する支度をしてから事務所に鍵を閉めて一階へ降りてきた。
「さて、何処で食べる？」
スマホを取り出して外食店を調べてみる、近くにあるのは――欧欧和欧和食・・・・・・
「この地域にはその二つしかないのか？！」
「面白いだろ、コンビニやスーパーは普通なのにそれ以外がこの地域の色に染め上げられているんだ。右に行けば和が左に行けば欧が、さて、お前はどちらにする？」
本当、楽しそうだな父さんは・・・・・・
僕はスマホをしまい答えた。
「和食で」
十分後
食事のジャンルを決めた後に父さんに連れられて父さんお勧めの食事処に着いた。
【R
「和食感ゼロ！」
いったいどんな食事処に連れて行ってくれるのかと期待をしていたんだけどガッカリだよ！
「おいおい看板だけで決めるのは良くないぞ！ほら見ろこの建物を、奥ゆかしさ全開だろ」
「確かに木造の平屋建てで奥ゆかしいと言えば奥ゆかしいが看板が全てをぶち壊しているよ！」
スパンコールを縁に大量に付けて達筆な筆記体で書かれたRestaurant✪Paul・Smithの文字。
本当にこれほどまでに残念な雰囲気を醸し出される食事処はここ以外にないだろう。
というかあってたまるか！
「まあまあ、そんなかっかせずに中に入ろうぜ」
父さんは軽いノリで暖簾を潜り抜けて引き戸を引いて中に入る。
「イラッシャイマセ、ナンメイサマデショカ」
カタコトで厨房から出てきた巨漢の黒人がこちらに寄ってきた。
「二名で」
父さんがそう言うと奥の座敷に通された。
僕ら以外にはお客はおらずとても静かで天井のスピーカーから流れるジャズの音楽が店内に響き渡っていた。
そうじゃないでしょ！とほほ・・・・・・
声に出して言いたくなる感情を押し殺しながら案内されたお座敷であぐらをかいて座った。
「メニューデス」
メニューなんだ・・・・・・
手渡されたメニューを流し見する。
「わ、和食だ」
「和食処だからな」
いや、そうなんだろうけども・・・・・・
僕はメニュー表に書かれていた日替わりランチを頼むことにした。
（ランチと書いてあるが中身は立派な定食だ。）
「すみません注文！」
父さんも決まったようですぐに店員を呼ぶ。
「ゴチュウモンヲオウカガシマス」
この雰囲気、本当に慣れないな～
「俺はサバの味噌煮でこいつは日替わり」
こいつって！それに何も言ってないのになぜ日替わりを見抜いた？！
「サバトヒガワリデスネ、ショウショオマチヲ」
そう言って店員は厨房へ帰って行った。
「それでだ。何か知りたい事があるんじゃないか？」
「何かって？」
「”何か”だよ。ここに急遽引っ越してきて、その上昨日事件（仮）に遭遇して、今日は転校初の学校へ行ったんだ。この二日で疑問に思った事が何かしらあるだろ？俺はお前の親だからな、親らしくその疑問に答えてやろうって事さ」
「親らしくってあたかも父さんが僕の親じゃないみたいに言うじゃないか」
「あぁ、お前は十二月のクリスマスの日に白い髭の不審者から授かったんだ――」
「僕はサンタの子かよ！」
「いや違ったかな、地獄の淵で――」
「まさかのサタン？！」
「ノリ良いな、全部噓だよ。お前はちゃんと俺らの誇れる子だよ」
「面と向かってそう言われるとなんか照れ臭いな・・・・・・」
「俺とみーちゃんはいつも仕事で家を空ける機会が多くて親らしいことを未だにお前に出来ていのが心残りなんだ。だからこういう機会くらい親らしい事。させてくれよ、な？」
「そっか・・・・・・」
別に僕の事なんて気にしなくてもいいのにな。
「ほら、言ってみ」
疑問か・・・・・・強いて言えば
「霧縫さん、霧縫 夜靄について何か知ってたら教えてほしいんだけど」
父さんが会った事が無い、知りもしないであろう彼女の名前を口にした筈だったのだが口にした瞬間父さんの顔つきが険しくなった。
「霧縫・・・・・・もしくは・・・・・・あるいは・・・・・・ありえるか」
ブツブツと切られた言葉を呟いた後に父さんは話し始めた。
「霧縫、その名前で俺が知ってるのは
社長の一人娘だって？霧縫さんが？それと
「Fog社って？」
「Fog社、日本のみならず海外にまで勢力を伸ばすジャンルレスな会社だ。最初期の頃は薬品、次に車、次に放送事業に石油にITと多岐にわたって事業を開拓し続けている。Fogまさしく霧の様に視界を覆い先を見通せないほど拡がり続ける会社だ。Fog社は今や私生活に必要不可欠になりつつある会社の一つになっている」
「そんなに凄い会社なんだ・・・・・・」
「まあな、そこにあるテレビを見てみろ」
父さんが指を指した所に顔を向けて言われた通りにテレビを見てみる。
「画面縁になんて書いてある」
「―――Fog」
「じゃあ今流れている放送局は？」
「テレビストだけど」
「これはFogの子会社で名称はテレビとミストを合体してテレビストらしい」
「ほげ～～」
本当に私生活に関与してるんだな・・・・・・知らず知らずにとんでもない人に話しかけられたもんだ。
「それでだ。その霧縫の娘がお前が目撃した事件（仮）の容疑者だと」
「え、僕、そこまで言ったけ？」
僕的にはそこまでの事は言っていないはずだが・・・・・・
「疑問、疑わしいと感じる事を俺は聞いた訳だ。そして白野が尋ねてきたのは霧縫 夜靄についてときた。友人だから知りたいのならこれから親密になっていく過程で知ればいいからそういう事で聞いてきたわけではいないと勝手に断定し、次に一目惚れで聞いた場合ならもっと白野は恥じらいをもつはずだ。だが恥じらいどころかお前の顔には緊張感がある、ならば昨日あった事件（仮）と関連性があるとみたってところだよ」
「マジか・・・・・・」
あまりの推察に僕が呆気に取られていると
「サバトヒガワリオマチ」
テーブルにサバの味噌煮定食と日替わりランチが差し出された。
「ゴユクリ」
そう言うとすぐにお勘定を置いて戻ってしまった。
「この続きは食べながら話すか」
「・・・・・・そうだね」
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