第35話 お前は誰だっ!
蹲っているキングロード
よほど痛いのだろう…口から泡を噴いている
「敵ですし、私この豚嫌いですから…情けなんてありえませんね」
エリザは槍でキングロードの喉を突く
「ゴフッ…」
せっかくパワーアップまでしたのに…
実に呆気なくキングロードは息絶えた。
だが実際、2人?の力の差は、 "天と地" 程もあったのだから仕方がない話ではある
「エリ姉、つよーい」
「マルーン、あの程度の豚ならアタシもアレぐらい殺れるぞ? …あ、こらっ?!」
戦いを眺めていた姉妹は、感想を言い合った
「ロードが瞬殺か…」
「ロベルト様、彼女たちは味方ですよね?」
一連の流れから、敵で無いのは分かったが…ザジはその強さに圧倒されビビっていた
あの力が万が一、こちらに向けられたら…と
「さて…ご主人様。あちらの方を紹介してもらいましょうか?」
振り返るエリザ。その目は冷ややかだった
「…あら?ご主人様??」
居ると思っていたはずの場所に、イッキが居ない
エリザは一瞬焦ったが…違和感に気付いた
「あらぁ?ヌレハの服に隠れているのは、どちら様でしょう…ね?」
どちら様?とは言ったが、そんなことをする馬鹿は1人しかいない
"ビクッ?!"
ヌレハの修道服の下半身がモゾモゾと動いた
「ちょっとご主人様っ! そんなとこ舐めたらダメだって」
ヌレハはクネクネと腰を振り、足をモジモジさせた
何故居場所がバレたのに、そんなマネをするのか…
見ている者は不思議に思った
"ガスッ"
「痛っ!…動いたらダメでしょ、ヌレハは。
…まったくもー!」
プンプン怒りながら、馬鹿が "ヨイショっと" と言って出てくる
「イテテ…」
どうやら膝が当たったみたいだ。横腹に痣ができていた
「あっ?!」
「「「「…あ?」」」」
「馬鹿だろ?ご主人様」
「アレが弟君…」
みんなからの視線を浴びたイッキは、挙動不審になる
「ご主人様、ヌレハの服の中で何を?」
「イッキ様ーっ、かくれんぼ?」
「無理だな。ご主人様、諦めろ」
…
「イッキ?…はて?? どちら様のことでしょうか?」
挙動不審の馬鹿は『イッキじゃないよ?』とシラを切る
「ヌレハの服の中に隠れるようなお方は、ご主人様以外に存在しません! それも全裸でっ」
確かにその通りだ。他の奴がやったなら、やる前…未遂で殺されるだろう
「くっ?! …僕は…えーっと…そうだな、
…んー。 …お股の毛の妖精さっ」
全裸のイッキは、可愛くウインクした
「「「「………」」」」
「アレが弟君…」
ザジの中で、イッキの株価が垂直落下する
言い訳をするにしてもあまりに酷過ぎた。
幼稚園児でも、こんなアホな言い訳はしないだろう
「ご主人様ひでーな。もっとマシな嘘言えねーのかよ…。言っとくがエリザ、アタシの股の毛に罪はないぜ?」
「そっ、それぐらい誰だって分かりますっ!」
エリザとヌレハが言い合っているのを良いことに、毛の妖精は次の獲物を探す
「マルーンは…ツルツルだから無理と。
…よし、パンジー。ちょっと股を開いてみようか?」
毛の妖精はパンジーに狙いをつけた
「これでいいかしら?」
とっても素直なパンジー。しかし妖精は、大事なことを事後に気付く
「ズボンじゃん! 入れないよ僕っ」
地団駄を踏む妖精
"ガシッ"
「妖精さん、ちょっといいですか?」
エリザに首を掴まれた
「な、なんでしょう…。僕、おウチに帰る時間なのっ。だからね、離してもらえないかなぁ?」
目をウルウルさせる妖精
「はー…。せっかくこの度の御礼に、お風呂でいっぱいサービスを…と思いましたのに」
溜め息を吐くエリザ
「マジ?それホントっ?! エリザ、僕にご褒美ちょうだいっ」
目を輝かせるイッキ
「ねーねー、僕ね、潜水艦ごっこがしたーい」
お風呂はそういう場所ではない。『風呂は命の洗濯よ』と言った、新世紀のミサトさんが聞けば怒られるだろう
「イッキ、お前は変わらんな」
ロベルトはイッキと女たちのやり取りを、楽しそうに見ていたが、イッキがゴールに走りきる前に話しかけた。いや、止めに入ったが正しいか。
「兄さん、邪魔しないでよっ」
約束まで漕ぎつけようとするイッキにとって、今は誰であろうと邪魔だった
「いくら弟君といえっ、ロベルト様にその様な口を利くとは何事か!」
ザジが熱くなる
「兄さん、コイツ誰??」
猫つまみ状態のイッキ。エリザが器用に、会話に合わせてイッキを相手に向ける
「コイツはザジ。俺の頼もしい…右腕だ」
「ロ、ロベルト様っ」
ザジと呼ばれた男の、ロベルトを見る目が熱いっ!!
「ホモの方ですね?」
イッキは、『ははーん、なるほどねー』と思った
?!
「違うって! ロードと対峙した時から、ザジの俺に対する評価が高いんだってば」
そうなのだ。ザジの中でロベルトの株価はうなぎ登り。忠誠心などはMAXである
反対にイッキに対する評価は地に落ちている。ゴミ以外だ
「大丈夫ですよ兄さん。ほら…"英雄、尻を好む" って、ことわざがあるぐらいですし」
イッキのニヤニヤ顔が腹が立つ
更にプラプラさせている股間が、イラッとさせた
その本人は、『大剣使いが両刀使いになっちゃった』ぐらいの事でも考えているのだろう
「い、言わせておけばっ…コイツっ!」
「やめろ!ザジ、イッキは俺の弟だぞ? …確かにこんな馬鹿だが、唯の馬鹿に見えるか?」
ロベルトがザジを宥める
「唯の馬鹿に思えますが…」
「それはイッキを知らんからだ。屋敷の中では父上より、人気も人望も…少し大袈裟かもしれんが、権力もあるぞイッキは」
「し、信じられませぬ…。このような奴が…」
ザジはとてもロベルトの言ったことが信じられなかった。イッキを知らない者は、おそらく皆同じように思うだろう
「ま、今はそれどころじゃないな。早く父上に報告せねば。冒険者の遺体と遺品の回収もある…。ザジ、お前が引き連れた冒険者は何名だった?」
オークのボスを倒した報告をしなければならなかった。本隊…バルトはまだ、戦いが終わったことを知らないからだ。
冒険者の数も照らし合わせなければならない。やる事はいっぱいある
(ん? …脳筋じゃなくなった?)
イッキは、"おや?" と感じた
「騎士、兵士を使い遺体を回収。死んだ者たちが何を思っていたにせよ…我がロマニアの為に戦ったのだ。一つもこの地に残してはならんっ」
「はっ! ロベルト様、至急ほ…
「ちょっと待った! 兄さん…。いや、兄さんだと思っていましたが、お前は誰だっ?!
兄さんはそんな立派な奴じゃない。脳筋で、ロリコンで…何をやっても裏目に出る、ダメな男が僕の兄さんだっ!」
イッキはかなりの大声で叫んだ
「お水です」
「あ、ありがと」
エリザに渡された水筒の水を飲むイッキ
「ちょっ?! イッキ!お前の頭の中で、俺ってどんなふうになってんのっ?」
ロベルトはちょっとショックを受けた
「どんなふうに…とは? 今言った通りですね。人は1ヶ月足らずでは変われません。別物ですよ今の兄さんはね…いや、このロリモドキがっ!」
唾を撒き散らしながら言った
「イッキ、それ酷すぎじゃねーか? もう名前 "ロ" しか合ってねぇよ…」
かなりショックを受けたロベルト
「モドキの話は聞きませんよ?それより、さっさと正体を見せなさい!早くしないと僕の配下に相手をさせますよ?」
「「えっ?!」」
「「「…はぁ」」」
反応が割れる。男2人は顔を青くして、ガクガク震え、女性たちは呆れて溜め息を吐いた。
「お待ち下さいっ!イッキ殿っ。こちらは本物のロベルト様っ、正真正銘あなたの兄上です」
ザジはこれ以上ないぐらい慌てた。恐れていた力が、まさに今こちらに向うとしている。
"じょろろーっ"
「うん。裸だとオシッコするのが楽だよねー。こっちの服って、ズボンにファスナーが付いてないから面倒くさいんだよっ。
…え?…何か言った?」
人目も憚らず立ちションするイッキ。ザジの話は聞いてなかった
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