第29話 ロベルトの初陣

☆オーク陣営☆ (翻訳しています)



『クイーンは見つかったか?』

その場にいるオーク達よりも大きく2倍以上、4メートルを超える"キング" が、側近のオークに問う

『依然分かりません』

側近の一匹が答えた

『クイーンの代わりに、ロードなるモノが現れ、我々と小競り合いをしています』

『ロードか…。だが、誰も手出しをしてはならぬ。ロードはワシより強いのだ。

クイーンを探さなければならぬのに、人間の領地まで来てしまい…その上ロードと争うなど、とんでもないことだ』


キングの軍を含めたオーク軍は、ロマニア騎士団と冒険者たちの2部隊と一触触発状態にあった

かろうじて睨み合いで保っているが。どちらかが行動を起こそうものなら、クイーンを探しに来たのに戦争が始まってしまう。

それはキングの理想ではなかった


『キング、各部族のジェネラル達が苛立っておられます』

更に追い打ちをかけるように、部族の長たるジェネラル達が、今にも行動を起こそうとしているというのだ。

『バカなっ?!アイツらには、この状況が分からんのかっ?』

キングは怒りを覚えた

『そもそもワシらが、人間領に行くからといってついて来たヤツらだ。何の権限があって勝手に仕掛けるっ!』

人間たちの指揮系統と協同力は分からないが、こちらは今バラバラだ。数的に多くても、この状態で勝てるとは思えなかった



◇◇◇



「皆の者、これよりオーク軍を蹴散らす!見ての通り、あちらは烏合の衆だ。我らがあんな野蛮で知能の低い怪物共に劣るはずが無い! …では、ロベルト様号令を」


「あ、うん…」

鼓舞したのはザジだ。脳筋のロベルトが、皆を前にして話せる内容ではない。

ロベルトの意気込みは、人並み以上にある。あるが…こうした大勢の人前でというのは経験も無ければ、何を話してよいか分からないと尻込みをしてしまう。

そして案の定、ザジに振られて慌てた


ザジは戸惑っているロベルトを一瞥すると、目の前に隊列を組む混成隊に号令を出す


「皆の者いくぞ!」

「「「おおっ!!」」」

「「「……」」」


混成隊の反応は二分する

士気が高いのは冒険者たち。同じ冒険者のザジが鼓舞したというのもあるが、物欲と名声欲しさの連中だ。やってやるという気持ちが高い

もう一方の騎士団は冷静に…むしろ冷ややかに見ていた。中には話の途中に離れる騎士もいたほどだ。バルト様より、様子見に止まれと言われた筈なのに…なぜ仕掛けるのか?と。


「おい、ロベルトが仕掛けるとバルト様にお伝えしろ」

「自分ですか?」

「あぁそうだ。皆も本隊に合流しろ。ここは俺と副隊長だけでよい」

隊長は長年の付き合いである副隊長を近くに呼ぶと、更に話をした


「先程からチラホラ騎士が、隊から離脱している。おそらくは、アイツらも合流しに本隊へ向かっているはずだ。お前たちはそいつらと一緒に本隊に行き、バルト様に俺が『ロベルト率いる部隊は壊滅。救援無用にございます』と言っていたと、お伝えするのだ」


隊長はまさかロベルトがバルト様の指示を破り、仕掛けるとは思っていなかった。指揮官としても、戦士としても未熟。それ故に軽視しすぎていた…

いや、ザジという冒険者さえいなければ…こんな事にはならなかった筈だ。

あの男には欲がある。それもかなり強い欲が…。

冒険者としてなら、それもいいだろう。だが、この戦いには必要ない。むしろマイナスの感情だ。

もっと早く自分がザジの本質に気付いていれば…と、後悔するが…全ては遅かった。

もう後戻りは出来ない


「た、隊長と副隊長は…まさかっ?!」

騎士の1人が気付く

「まあな…。ほぼ全滅する戦いになるだろう。だから騎士が隊から1人もいなくなるのは拙い。確実に全滅ならよいのだが、生き残りの冒険者…それもザジのような奴が残った場合、誰かが始末しなければロマニア領民に矛先が向くだろう」

そう…隊長が危惧しているのは、冒険者の敗走による暴走だ。

仁・義・礼を重んじる冒険者なれば、隊長も一緒に死ぬのも良いと思うだろう。だが、ロベルトの下に集まった冒険者たちは…

冒険者を1人残らず始末するまでは死ぬことが許されなかった


「副長。すまん、俺と共にお前にも死んでもらう」

「「隊長、我々もお供しますっ」」

「若造どもがっ!とっとと本隊へ行け!!」

副隊長が怒鳴る

「一人前になってから言えっ、ひよっこ共!

ここは俺と隊長で十分だ。足手纏いなんだよ、お前らはなっ」

副隊長は辛口だ

……

「隊長、副隊長に敬礼!」

「「「ありがとうございました」」」

騎士の1人が号令を出すと、他の騎士たちが一斉に礼を言った

「バカやろう! 俺らが死ぬみたいじゃねーか。いつもの酒場でお待ちしてますぐらい言えねーのか? じゃーな、早く行けっ」

……

「「「はいっ!」」」

騎士たちは本隊へ合流すべく離脱していった

隊長と副隊長の最後の言葉をかみしめて。



遠ざかる騎士たちの背中を…見えなくなってもしばらく眺めていた2人

「副長、汚れ役すまん…だが、これが最後となるな。長い間ありがとう」

「よせよ。ま、お前1人だけで旅立たせるほど、俺はひでぇ友じゃないからな。付き合ってやるよ」

副隊長は隊長の肩を小突く

お互いロマニア領民として生まれ、子供の頃からの悪友であり親友だ。ある時は羽目を外し、上官に揃って叱られた。またある時には同じ女性に恋をして共に失恋し、ヤケ酒を2人で呑んだ。


今からの戦いは絶望的。尚且つ、生き残りの冒険者の処分という任務を考えたら…

しかし、2人の顔には暗さがない。どちらかというと、晴れやかだ


「なぁ、ロマニアに生まれて良かったか?」

副隊長は隊長に聞く

「お前は悪かったか? …同じだよ。」

「…そうだな。聞いた俺が一番分かっているな。じゃ、行くか隊長っ」

隊長の背中を叩く


「あぁ…。最後に死ねよ?」

「バーカ、お前より先に死ぬのが部下の役目だろ?」


「「くっくっくっ…」」


2人は笑いながら、ロベルトとザジが率いる冒険者たちの後を追った

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