第2話 地団駄を踏む

 気まずくなってしまった。


 それは、絶対自分のせいだと辰也たつやはわかっている。


 想いを寄せている、のっぺらぼうの芙美ふみに頼まれて人間界の買い出しに一緒に行ったところが。


 カップル限定ショコラアソート。


 そこは悪くない。芙美が辰也を頼ってくれるのなら、嬉しかったから。


 ただ、辰也と芙美は種族は違えど『友達』。


 そう、友達でしかない。付き合ってもいないし、辰也が一方的に思っているだけ。だから、店の中でそう言う対応をされると苦笑いしか出来なかった。自分はともかく、芙美には嫌な思いをさせたのではないかと。


 その予感が的中したのか、その日以降のLIMEの返信がスタンプしか来ないという始末。


 何故、迷惑じゃなかったと言わなかったんだ、と激しく後悔していた。



「……で、界隈にも行きづらくなったと?」



 悩みに悩んで、結局。


 同期で妖でもある不動ふどうゆうこと風吹ふぶきを引っ張って、昼飯を奢るついでに相談に乗ってもらったわけである。



「おう……芙美さんから返事はもらえても、相変わらずスタンプだけだし」

「……返事もらえるだけまだいいんじゃないか?」

「そうだけどよ!? この幸せ者め!! 俺の恋が玉砕しかけてんだぞ!?」

「いや、玉砕とかなら……完全に無視とかじゃないのか?」

「〜〜……そうだけど」



 しかし、LIME上だと辰也が一方的に会話をしているだけで、成り立っているようでなっていない。それらしい反応は貰えてもそれだけ。


 悲しいかな。社会人になってからまともに恋愛してなかった辰也は。


 ずっと、腕の切り傷があったせいで。恋愛にはある意味風吹よりも消極的だったのだ。絶対、女性には嫌われるだろうと。


 そのレッテルがなくなって、ようやく普通の男としてなんの迷いもなく、普通に生活出来るのだ。今が最高と言っていい。


 現在の恋愛に関しては、どん底に近いが。



「……けど。誤解を解くなら早い方がいいだろう?」



 風吹は運ばれてきたデラックス天丼の半分まで、いつのまにか平らげていた。



「そ……うだけど。はじめん時みたいに、楽庵らくあんで会えるかわかんないし」

「楽庵以外に、彼女の行くところを知ってるか?」

「……界隈だとわからん」

「だろ? なら、しつこくても行けよ」

「お前……田城たしろさんと付き合うようになってから、変わったな?」

「……多少、自信が持てるようになっただけだ」



 それにしては、メカクレと言われてた前髪を切った、いや変身し直したというべきか。


 ブルーアイをしっかり見えるようにさせて、女性からの誘いにも丁寧に断るようになったのだ。


 もちろん、断り文句に『彼女がいるから』ときちんと言うから、社内のファン達が阿鼻叫喚絵図になってしまったが。



「……自信、か」



 嫌われてはいないと思う。


 だけど、それは友達としてだ。


 辰也としては恋人同士になりたいのだが。ないものねだりかと思わずにいられない。


 とりあえず、今日は楽庵に行ってみようと、仕事は定時で終わらせ。rougeに行くと、ちょうど限定チョコマカロンが売ってたので思わず買ってしまい。


 少し緊張しながらも、界隈に足を向けたのだった。

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