第5話『マンボウの串焼き』

 ファストフード店に負けないくらいの、カリカリとした表面に。まだ衣に残っている揚げ油と衣がぶつかって爆ぜる音。


 持ち手の部分は、火坑かきょうが丁寧に巻いてくれた紙で持ちやすく、今にもかぶりつきたくなるような出来栄え。


 衣が、まるで黄金のように光り輝いていて、食べるのがもったいないくらいだ。だが、せっかく火坑が手掛けてくれた逸品。食べなくてはもったいないだろうと、美兎みう真穂まほとほぼ同時にフライドチキンにかぶりついた。



「んん!?」

「ん〜〜!!?」



 あまり高い温度で揚げていないと言っていたのに、普通に唐揚げと比較にならないくらいに衣はサクサク。中の肉にもきちんと火が通っていて脂身も相まってとてもジューシー。


 これには、ビール。と美兎はふた口くらい食べてから生ビールを煽り。幸せの循環に溶け込んでしまいそうになった。



「うっま!? 普通のジャンクショップの奴より断然美味しいですよ、火坑さん!」

「ふふ。お粗末様です」

「う」

「ま」

「い!」

「ほんと、美味し!」

「ねー?」



 しかも、大振りの肉がひとりにつき一本。


 贅沢な逸品である。


 生ビールをおかわりしながら食べ進めていくと、また誰か来たのか引き戸が開いた。



「邪魔するぜぃ!」

「久しぶりでやんす!」



 次は、夢喰いの宝来ほうらいにかまいたちの水緒みずおだった。小さい身体なのに、大きな発泡スチロールの箱を抱えていた。



「俺っち達は届けだけでぃ」

「な?」

「え? ご一緒出来ないんですか?」



 会うのも随分と久しぶりなのに、と気落ちしていたら宝来がウィンクしてきたのだった。



「俺っち達がずっといたら、美兎の嬢ちゃんと大将がゆっくり出来ねーだろ? だもんで、今日はこれだけさ」

「お嬢さんとは知り合いからの品でやんす」

「知り合い?」

「どなたでしょうか?」



 火坑がこっちに回ってきたので、蓋を開ければ中トロのような大きな魚のサクが入っていた。絶対刺身でも美味しそうだが、添えられていた手紙を火坑が見ると、くすりと笑ったのだった。



「誰からですか?」

「烏天狗の翠雨すいうさんからですね? 所用が立て込み過ぎて、直接は来られないそうです。これが、例のマンボウの肉ですよ」

「これが!?」

「え、マンボウって食えるんですか!?」



 辰也たつやも食べる手を止めてこちらに振り返るくらい。一同、マンボウの肉に釘付けになってしまった。



「じゃ、届けたんで俺っち達はこれで」

「また来るでやんす」

「はい」



 本当に届けるだけに来たようで、二人はさっさと帰ってしまったのだった。


 とりあえず、マンボウの肉は日持ちがしにくいのと。今日は既に重めの品々ばかり食べているので。マンボウの肉の一部を、シンプルに串焼きにしようと火坑は決めたようだ。



「マンボウの肉って聞いたことないけど。食えるんだー?」

「私も……火坑さんとお出かけした時に。烏天狗さんに聞いたんです。三重県や和歌山では食べられるって」

「え、初デートなのに。街中で妖怪に出会ったの?」

「ふふ。偶然ですが、あちらもお相手がいらっしゃったんですよ」

「……俺が知らないだけで、妖怪と人間が付き合うのって。意外と多いんですか?」

「それでも。ここ数十年は随分と減ってしまいましたよ?」

「そうねー?」



 紗凪さなと翠雨以外に、美兎も他に付き合っている人間と妖のカップルは知らない。ろくろ首の盧翔ろしょうや雪女の花菜はななは同じ妖でも種族が違う。


 彼らともしばらく会っていないが、元気にしているだろうかと思っている間に。


 マンボウの串焼きがもう出来たのであった。


 肉汁がしたたり、見た目にも美味しそうな逸品。皿に盛り付けられた串焼きを、真穂や辰也達は串を持ったが美兎は串から取り外して箸を使った。


 息を軽く吹きかけて、ひと口。


 ついさっき、フライドチキンを食べたばかりなのでわかるが。本当に魚類なのに鳥肉のような食感と味わいだった。



「お邪魔します」



 美味しいと、声を上げそうになった時に。


 何故、ここにと思った人物が来訪してきた。


 会社の清掃員、三田みた久郎くろうが。まるで、ここの常連だという感じに入ってきたのだった。

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