元酔紅線夢譚 紅い疾風

ミルキーウェイウェイ

第二部 再会

深淵


 常闇の宮殿、そこにある物のほとんどが漆黒、墨染の黒、悲しみのあおがね、光さえ透すことのない永世の冥闇。


 

 あの人は―― 私の永遠の人は何処にいる?

 

地を巡り――あの人を探し出す為、私は時を超えた。

 

 やっとあの醜い世界から救い出し、ここに連れて来たというのに。

 

 黄金に輝く神虎シェンフゥー、あれが邪魔したせいで、私はあの人から引き離された―― なんと口惜しや。

 

鼻っ柱の強く、優しいあの人は、いつも私の味方であった…… なのに……あの人は、魂はこう言った。

 

 「……離して。私は生まれ変わった。この生を全うしなければ―― 何故あなたはいつまでも闇に囚われたままなの?私を帰して!お願い!!」

 

 憎らしかった。私を忘れると?

 私は怒りに任せ、彼女を崖から引っ張り落とした。

彼女の泣き叫ぶ貌を見て、全身が愉悦を覚えた。

 彼女の身体は、氷の様に冷えきった私と違って温かかった。

 いや、あれは激しく燃え上がる灼熱の炎そのもの。恐れから逃れようとする生命の輝きが、白い閃光が炎を放つ。全てを焼き尽くす、朱雀の羽の様な神々しい耀き。紅く舞散る火の粉でさえ、触れた使い魔を瞬時にして灰燼と化す――

 

  彼女の美しき魂は、魔物と成り果てた私には触れることさえままならぬ。

血の泪を流し、あの人の名前を呼ぶが、それでも魂は私を受け入れるのを拒んだ。

あの人が怒っているのが解った。

 

 あの漢人の女は、何の役にも立たなかった――死神に救いを求めるとは、馬鹿な女。

 

 

だが、やっとあの人に触れる方法が見つかった。


 今度こそ私達は一つになるのだ―― そしてこの世界を、めちゃくちゃにしてくれる。


世の為に尽くしたこの私に、酷い仕打ちをしたこの国を、私は決して許しはしない。

 我が望みは徹底的な破壊、殺戮、失意、恐怖、孤独、全ての生きとし生ける者を、限り無い悲しみの深淵に堕とすこと―― 絶望の色に塗り込めてくれる。

 

 

 この常闇の色に――


 

そう、この現世うつしよは、私の宮殿の一部となるのだ。


 


 金がかった榛色の瞳は宙を見つめた。

 

 

 雪花シュエホア、不染。是非にも染まらぬと願う、お前の強情な魂は――私なら染めることが出来る。 私達は紅い糸で結ばれているのだから――

 

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