第14話 衣織が家にやってきた

 僕は朝からずっとそソワソワしている。


 いよいよ衣織との同棲がはじまるからだ。


 この間、今度新婚デートしようなんて話題になったが、まさかこんな展開になるとは、流石に思ってもみなかった。


 学さんの提案をあっさり了承した両家に何も思わなくはないが……僕は期待に胸を膨らませている。


「ちょ、兄貴あんまウロウロすんなよ、うっとおしいよ」


「あ、ごめん」


 ちなみに、凛がいるから完全な同棲ではない。


 この邪魔者が! とかは思っていないです。




 ——そうこうしている間にインターホンがなった。


 衣織が来た!


「おじゃまします」「やっほー!」


 衣織の荷物は意外なほど少なかった。それでもアコギと大きめのキャリーバッグが2つ。詩織さんが荷物運びに駆り出されていた。


「案外荷物少ないんだね」


「家近いし、必要な時に取りに行こうかと思って」


「そうだね」


 まあ、一応しばらくって話だから、その都度で正解かもしれない。


「こっちの部屋使ってくれる」


 僕が部屋に衣織を案内している間、凛と詩織さんが一瞬で意気投合していた。知らない間柄ではないが、凛は詩織さんのこと、あまり覚えていないはずだ……なんて適応力だ。


「なんか……改まると照れ臭いね」


「そうね、今日からよろしくね鳴」


「うん」


「さて、荷物片付けるから出て行ってくれる?」


「手伝わなくていいの?」


「彼女の下着を片付けたいの?」


「あ」


 そう言うことか……僕は慌てて部屋を飛び出した。


 一緒に住むとなると、その辺もちゃんと意識しないとダメだと思った。



 ——「ねえ鳴くん」


「はい」


「鳴くんと衣織って、何処まで進んでるの?」


「あ、凛も聞きたい」


 な、な、な、な、な、なんて事を聞くんだ!


「ど、何処までって……」


 姉に妹、妹に兄の情事なんて話せるわけない。


「付き合って半年ぐらいでしょ?」


「はい……」


「もうキスはしたよね?」


「え……あ……」


 これ、誘導されるとヤバいやつだ。濁しにくい。


「どうなの?」


 こ……答えにくい。


 僕がモジモジしていると、詩織さんから爆弾発言が飛び出した。


「まあ、ママに聞いて知ってるんだけどね」


 な……何ぃぃぃぃぃ!


「え、何それ凛にも教えて」


「後で、ゆっくりね」


 やめてください……兄の情事を妹に話さないで!


 つか、佳織さん……詩織さんに話しちゃったの? ど、何処まで!


「部屋でいつもイチャラブしてるんだってね」


 いつもってことは結構話してる? ダメだ……この流れはダメだ……恥ずかし過ぎる。


「ちょっとお姉ちゃん、鳴に変なこと聞かないでよ!」


 僕が恥ずかしさに悶えていると、衣織が助け舟を出してくれた。これはマジで助かった。


 み……身内って恥ずかしい。冷静に考えると愛夏とのことも筒抜けだったわけだから、凛には兄として醜態を晒しすぎだ。



 ——詩織さんは買い物に行きたいからと言うことで、場を散らかすだけ散らかして帰って行った。


 程なくして凛も愛夏と約束があると行って出て行った。



 つまり……衣織と2人きりだ。


 でも、衣織は片付けで忙しそうだ。


 2人っきりなのに1人でいると、なんか落ち着かない。


 僕がリビングでそわそわしていると「ちょっと休憩」僕の心を読んでくれたかのように衣織が来てくれた。


「お疲れ様、結構片付いた?」


「うん、もうほとんど片付いた」


 どんな状況であっても密室で2人だと何か期待してしまうのが、悲しい男の性だ。


 僕はさっきまでと違う理由でソワソワしてしまう。


「本当に一緒に住むことになっちゃったね」


「あ、うん」


「最初はパパの冗談かと思っちゃった」


「それは僕も思った」


「鳴のご両親も凛ちゃんもあっさり認めてくれたし……それだけ信頼されているってことね」


「そうだね」


「だから、へんなことしちゃダメだからね」


「え……変なこと?」


「わかってるくせに」


 え……それって……キスもダメなのかな?


「凛ちゃんも一緒に暮らしてるんだから、自重してね」


「う……うん、それは」


「まず、プラトニックな恋からよろしくね!」


 ぷ……プラトニックな恋……僕のもう一つのソワソワは一瞬のうちになくなった。


 ————————


 【あとがき】


 プラトニック……それも恋だけど。


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