第12話 男はロマンチストだね

 散々泣いてやっと気分が落ち着いた。


 とりあえず、何も口にしないのはダメだと衣織に諭され部屋を出ると。


「おじゃましてます」

 愛夏が来ていた。


「更に酷い顔だな……やっぱ泣いてたのか」


 凛はともかく愛夏にも泣き顔を見られてしまった。


「い……いや、なんでもないよ」


「いや……それは無理があるって……あんだけ声あげてたら普通に聞こえるし」


「え……もしかして愛夏も?」


「う……うん」


 僕の鳴き声は愛夏にも聞かれていたようだ。それにしても昨日の今日だというのに愛夏はあっけらかんとしている。


「もうレッスンは終わったの?」

 何事もなかったかのように2人に話しかける衣織。


「いや、兄貴の鳴き声が気になって全然集中できなくてさ」


「あー……なんかごめんね」


「衣織さんのせいじゃないよ、情けないクソ兄貴が悪いんだから」


「え、衣織は愛夏が来てるの知ってたの?」


「知ってたわ、下で会ったもん」


 衝撃の事実だ……教えてくれたら……もうちょっと抑えたのに。


「教えてくれたらとか思ったでしょ?」


「え」

 いつもながら驚かされる衣織の慧眼。


「それじゃ、スッキリしないでしょ」


 まあ確かに。


 でも……愛夏は平気なのか。


「ねえ鳴、私のために泣いていてくれたんだよね?」


「え……」


「隠しても無駄だって、鳴は全部顔にでるんだから」


 あれ……もしかして衣織だけじゃ無くてみんなにもバレバレだったとか?


 なんだろう……急に恥ずかしくなってきた。


「でも、鳴を見てると男はロマチストって本当だなって思ったわ」


 ……ロ、ロマンチスト。


「あ、それありますよね」


「凛は付き合ったことないから良くわかんねーけど、確かに兄貴はロマンチストだな」


「男の人って大体こんな感じって、結衣も言ってたわ」


 え……もしかして結衣さんにも事情は筒抜けなの?


「あーっ、結衣さんが言うならなら信憑性上がるな」


「結衣さんって川瀬先輩?」


「そうそう」


 なんかガールズトーク盛り上がりそうな雰囲気だ。




「過去に対する思い出補正がすごいのよね。美談にしたがると言うか」


「その節はありましたね」


「凛はよく分かんねーけど、兄貴はそんな感じだ」


「あと、アレですよね。そんな細かいところまで気にしてないから。みたいなのも良い思い出にしちゃってますよね」


「そうそう」


「凛はよく分かんねーけど、兄貴に当てはまるな」


「すぐに悲劇の主人公になりたがるでしょ? 勝手に悲劇にしないでって話よね」


「あーそれっすっごくわかります」


「それは凛もすっごくよくわかる」





 なんだろう……穴があったら入りたい。





「とにかく過去に対する温度感が違いますよね。そこ大切にするよりこれからを大事にしてほしいですよね」


「本当そうよね」


「いや、マジそれ思うわ」





 男って括りになってるけど……これ全部僕のことだよね。





「鳴、そんなわけだから本当にもう気にしないで」


「愛夏……」


「もう、私にとって鳴は過去の人。新しい出会い……探さないとダメなんだし」



 昨日の今日で過去の人って……切り替え早くね?



「でも、ありがとう鳴。鳴の気持ちは伝わった。これからは幼馴染としてよろしくね」


「う……うん」



 なんかこの話も……僕を慰めるために、わざとしてくれたんだな。



「あ、ちなみに鳴、この話は鳴を慰めるためにしてるんじゃないから。なんでも美談にしちゃダメよ」


「……は、はい」


 何でもお見通しのようだ……やっぱ衣織には敵わない。



「鳴、男はロマンチックかもしれないけど、女はプラグマチックだからね」


 ぷ……プラグマチック……愛夏なんだよ、それ。



 

 僕を置き去りにして、この後も3人のガールズトークは続いた。




 3人の会話を聞いていると、僕がいかにウジウジしているのかが良くわかった。


 それでも僕はすぐに割り切るなんて無理だ。


 ロマンチストと呼ばれてもいいから、愛夏との初恋は大事にしまっておきたい。


 愛夏から『新しい出会い』って言葉を聞いて、少し寂しい気持ちになったけど、そう言う未練がましいところは、なんとかしないとと思った。



 ちなみにプラグマチックの意味を調べたら、実際的とか実用的って意味だった。



 妙に納得しまう僕だった。


 


 ————————


 【あとがき】


 タジタジですよね。


 2人の子どもの頃のエピソードが気になる方はこちらを読んでみて欲しいです!



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