第17話 チェックメイト

 俺は嫌々ながら、昨日と同じ運動場でちびっ子ツインテールと向き合っていた。

 なんで2日連チャンで、バトルをしなきゃならないんだ………。


 アスカの勝負の申し出を、最初は断った俺だが、その後も何度も何度もアスカは、「勝負をしよう!」とガキのようにしつこく言ってきた。

 すると、隣で見ていたリコリスが、

 

 「これで勝ったら、2度とこの子は、ネルが怖くて勝負しようなんて言ってこないでしょうね」

 

 と、わざとなのか、無意識なのか知らないが、そう呟いてきた。

 まぁ、俺も1回で済むのなら、平穏な学園生活が守れるのなら、と思い、仕方なく勝負を受けた。


 そうして、俺は、第2運動場でアスカと向き合っているってわけだ。

 数メートル離れたところで、準備をするアスカは、言ってくる。

 

 「ルールは昨日と同じでいいでしょ? なんでもありだから」

 「お前、昨日の見ていたのか………」

 

 昨日のマナト先輩との勝負は、たくさんのギャラリーがいた。その中に金髪ツインテールがいなくもなかったような。

 

 「ええ。丁度暇だったから、見させてもらったわ! 中々面白かったわよ。まぁ、裸にさせて降参させるのは少し邪道だと思ったけど………」

 「あれは自分の意思でやってない!」

 

 俺の魔法ではあるけど!

 

 「でも、今回はなんでもあり。物理的に動きを封じるのもよし、精神的に攻撃するのもよし、社会的に追い詰めるのもよし! とにかくなんでもありよ!」


 アスカは自信たっぷりに杖を構える。

 昨日の見ていたってことは、俺のレベルを知ってんだよな。


 制御がまともにできないといえども、俺のレベルが高く、強いことに変わりない。それに、1年前の俺は知識でやってきていた。


 アスカは飛び級してきたって言っていたから、頭はいいはず。勝率も分かってるはずだ。

 なのに、なぜあんなに自信たっぷりなのか………。

 

 「リコリスさん! スタートの合図をしてもらえる!?」

 「分かったわ! 任せてちょうだい!」

 

 リコリスは、アスカのお願いにニコニコ笑顔で答える。

 リコリスの方を見ると、やつは俺と目を合わせるなり、「制御ポンコツやろう、精々頑張りなさい!」と口パクで言ってきた。

 さてはコイツ、俺が負けるところを見たいんだな? 

 

 「始めっ!」

 

 リコリスの合図とともに一直線に駆け出すアスカ。

 俺は、その場を動かず、腰を低くし、構える。

 アスカの魔法次第で、使う魔法は変わってくるな………。

 

 「ハッ! 動かないのは、あたしに怖じ気づいているからなのっ!? あたしが怖くなった!? 昔のことを思い出した!?」


 そう叫ぶアスカ。走りながら、スイっと横に杖を振る。

 

 「シイクネッビア!」

 

 アスカが唱えたのは、自分の近辺に濃霧を生み出す魔法。

 景色が白へと変わり、アスカの姿を見失った。

 やみくもに攻撃すると、運動場を壊しかねない俺は、この霧をどうにかしないと、攻撃をしたくてもできない。


 俺は、杖を振り、風を生み出す。かなり強めの風を作ったので、すぐに濃霧は消えていった。

 ………あれ?

 どこかに身を潜めたと思ったアスカは、数メートル離れたところに立っていた。


 一体何がしたかったんだよ。もしかして、俺はおちょくられてんのか?

 まぁ、いいや。とっととお遊びを終わらせよう。

 

 「アイスオンダ!」

 

 俺が唱えた魔法は、氷魔法。氷の波がアスカの方へ進み、地面を覆っていく。

 逃げる素振りも見せず、余裕の笑みを浮かべているアスカの足を捕えた。

 

 「もう動けないだろ? 炎でやったって無駄だからな。お前の負けだ」

 「それはどうかしら?」

 

 その声が背後から聞こえた。

 

 「え?」

 

 ゆっくりと振り向く。

 そこには、巨大バズーカを構えた、もう1人のアスカがいた。

 彼女と俺の距離は、1メートルあるかないかぐらい。

 

 「チェックメイトね、落ちこぼれネル」

 

 背後に警戒はしていたものの、アスカらしき気配は一切なかった。しかし、やつは俺の後ろにいる。

 それにアスカが2人いる………。

 

 「なんで………」

 

 俺の困惑顔を見たアスカは、小悪魔のごとくニヤリと笑っていた。

 

 「フフフ………あたしは何でもありと言ったはず。まともに戦ったって、Lv.9000のあんたに勝てるはずもない。

 それで考えたのよ。いかに自分の存在が気づかれないように、あんたに近づくか。あんたが相手していたのは、ダミーよ」


 俺が相手していたアスカは、人形だったのか。気づかなかった。

 確認のため、ちらりと後ろを見る。すると、人形のアスカが俺の魔法に耐えられなくなり、壊れていっていた。


 思い返せば、アスカはものづくりが得意だった。簡単な魔道具ならその日に作ってしまう、そんなやつだった。

 

 ————俺は、アスカに何度やられたと思ってんだ。

 

 気づかれないよう、杖を背中の後ろに隠し、小さく振る。

 すると、アスカの足元の地面から、紫の触手がにょきっと生えた。


 さぁ、1年前の嫌がらせをお返ししようか。

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