第11話 お前ソレ食えるんだぞパート2

 漁船の近くで、網の片付け作業をしている男性を見つけた。


 髪を短く切りそろえ、真っ黒に日焼けした、いかにも海の男といった風貌だ。


「すいませーん、ちょっといいですか?」

「ん、お前みたいな金持ちのボンボンが何の用だ?」

「え?」


 言われて気づいた。

 俺は今、学校の制服姿だ。

 暑いのでブレザーは脱いでいるが、革靴にスラックス、革のベルト、白のワイシャツにネクタイを締めた十代の若者は、なるほど、この国の人からすれば、どこぞの金持ちのお坊ちゃまに見えるんだろう。


 でも、この服装が武器になるとわかれば使いようはある。


「いえ、私は新政府から派遣されてきた、高橋翔太という者です。この度、食料問題を解決するための政策で、漁師の皆さんにお願いしたいことがありまして」


 自分でも驚くぐらい、すらすらとセリフを語ると、男性は顔色を変えた。


「へぇ、噂には聞いていたけど、本当にクーデター成功したのか。で、何の相談だ? 魚をタダでよこせって言うならやらねぇぞ」


 いきなりそんな考えに行きつくあたりから、前の政権がどれだけ横暴だったかがうかがえる。


 もっとも、俺もやろうとしていることは同じだが……。


「いえ、何と言いましょうか、似て非なることなのですが、畑の肥料にするために、魚の残飯は捨てず、こちらで回収させてもらえないかと。あと、貝殻を頂きたいのです」


 途端に、男性はへの字口になる。


「悪いが無理だな。ここ最近は不漁で魚も貝もまともに獲れねぇんだ。全部市場に売っちまうからここに残飯や貝殻なんざねぇよ」


 当てが外れて、頭を抱えたくなる。


 どうしてこう上手くいかないんだろう。

 やっぱり、ラノベと現実は違う。

 現代知識無双なんて、机上の空論なのか。


 それでも、なんとか食い下がろうと、諦めずに尋ねた。


「そうですか、それで、不漁の原因はわかっているんですか?」

「フンッ、海の雑草のせいだよ。全部あいつらが悪いんだ」


 吐き捨てるように言って、男性はそっぽを向いた。黙々と、網の片付け作業を再開する。


「海の雑草?」

「なんでしょうか?」


 俺とナナミが顔を見合わせると、海の方から、苛立ちの声が聞こえてきた。


「あっ、チキショウが! まぁたスクリューに絡まってやがる! この雑草共はなんなんだよ!」

「急にうじゃうじゃ湧きやがって。こいつらのせいで仕事になんねぇよ!」


 怒り心頭の漁師たちへ歩み寄ると、彼らは小舟のスクリューに絡まった黒いモノを、ナイフで切り刻みながら取り除いているところだった。


 ——へ……これが、海の雑草? これって……。


「ワカメじゃねぇか!」

 思わず、素っ頓狂な声を上げた。


 漁師たちが、何事だと顔を上げ、俺に注目してくる。


「なんだ兄ちゃん、あんたこれ知っているのか?」

「知ってるも何も、ていうか、え? それそんなにうじゃうじゃあんのか?」

「パシク周辺の海域はこいつで埋め尽くされているよ。おかげで船のスクリュー絡まるし網に引っかかるし、潜ってもワカメが邪魔で魚が見えないし」

「ほんとにこのわかめとかいう雑草邪魔だよな」

「おまえらそれ食えるんだぞ!」

『は?』


 漁師たちが、不思議そうに首を傾げた。


 そういえば、聞いたことがある。


 ゴボウと同じで、ワカメも基本的には日本でしか食べられていないと。


 そして、船底にくっついて世界中の海に拡散し、大繁殖して外来生物として迷惑をかけていると。


 どうやら、パシクもその例に漏れないらしい。


 ナナミが感嘆の声を漏らした。

「このワカメというのが食べられるのですか? 信じられませんねぇ」

「いや、お前が握っているのはタマハハキモクっていう別種な。それも日本からの外来生物だけど……」


 硬くて食べられないけど、海藻なので肥料にはなるだろう。


 でも、ここで俺に天啓が下った。


 ——待てよ。貝のエサは海藻だ。なら。


「なぁ、海藻が大繁殖しているなら貝もいっぱいいるんじゃないか?」

「いるぞ。海の底を埋め尽くすどころか積み上がってるぜ」

「でも網が使えないから潜って一つ一つ手づかみしないといけないからあまり獲れないんだよ」

「よし、じゃあ海藻は取れるだけ取りまくってくれ! どうせ外来生物だし!」


 拳を固めて、俺は口角を上げた。


「ワカメは食えるしタマハハキモクは肥料になる。どっちも有用性抜群だ!」

「兄ちゃんそんなことよく知ってるなぁ」

「これでも新政府から派遣されてきた者ですから」


 と、胸を張って言っておく。


 ——ゴボウといいワカメといい、ちょっと確認しておくか。


「あの、ちなみにタコ、ナマコ、ウニって食べます?」

「知ってるけどあんな気持ち悪いの食べるわけないだろ」

「それも全部食べられますよ。ていうかマジで美味い」

「嘘だろ? あんちゃん俺らのことを騙そうとしていないか?」

「新政府つっても政府は政府だろ、信用できねぇな」

 村の人たち同様、疑って目で見てくる漁師に、俺は言ってやる。

「じゃあ俺が食ってやるよ、台所借りるぞ!」


 そして、ナナミの村での再現である。


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