第333話 味を盗むということ
いざ夕食が始まると、いの一番にブルーフレイムガリトンのスペアリブステーキに、ミクモさんがかぶりついた。
「んんっ!!骨周りの肉はやはり美味いのぉ〜。柔らかく、筋っぽさもなく、それでいて強い肉の味。やはり肉はこうでなくてはな!!」
スペアリブステーキを一本完食すると、ミクモさんは俺が芋酒の代わりに用意した芋焼酎を、ロックで豪快に飲み干した。
「くはっ……この芋酒に似た酒も良い。甘さは控えめだが、香り高く、口の中をサッパリとさせてくれる。肉とこの酒の組み合わせは最高だぞ!!」
我が家の大喰らいのグレイスやランさんに負けない食いっぷりで、ミクモさんはブルーフレイムガリトンで作った夕食を食べ進めていく。
他のみんなも美味しそうに食べてくれている最中、ドーナは一口食べては悩むような表情を浮かべていた。そんな彼女にミカミさんが話しかける。
「ドーナちゃんどうしたの〜?」
「あ、いや……ヒイラギが作った料理を、アタシも作れるようになりたいと思ったんだけど。味を盗むのがなかなか難しくてさ。」
「あはっ、そっかそっか。ちなみにドーナちゃんは今まで料理の経験とかってあるの?」
「肉を焼いたりしたことは何回かあるけど、こんなに美味くはならなかったよ。このブルーフレイムガリトンのステーキだって、塩と胡椒で味をつけてるだけなのにさ。こっちのソースはちょっと何を使ってるのかわかんないけど……。」
「ん、その塩と胡椒の匙加減が、焼きあがった肉の味を決めるんだよ。」
自分で作ったブルーフレイムガリトンのステーキを1切れ食べて、ドーナに向かって言った。
「今回のブルーフレイムガリトンは、中心までしっかりと火を通してる。所謂
「塩と胡椒の量が大事ってことかい?」
「その通り。目安としては肉の重さに対して、0.1%の塩加減がベスト。胡椒は全体にかかっていれば問題ない。」
「なるほどねぇ。」
ドーナはどこからかメモ帳のような物を取り出すと、俺の言葉をメモしていった。
「ちなみに今言った塩加減はあくまでも目安。今日のステーキにはそれよりもちょっと多く塩を振ってる。」
「なんでだい?」
「ドーナとミクモさんは稽古して汗をかいたからな。体が汗をかくってことは、塩分を欲してるってこと。だからほんの少し塩を強く振ったんだ。」
まぁ、これは実際に人のことを見ていないと調整は難しいものだ。俺は2人が汗をかいていたのを見ていたから、こうやって料理の塩加減を調整できたけど……。
「まっ、ちなみにステーキに塩と胡椒が使われてるのが分かれば、それだけで味を盗んだってことにはなるんだぞ?だってあとは量の問題だからな。この味を覚えていれば、どのぐらいの量の塩を振ったら同じ味になるのか……いずれたどり着ける。」
味を盗むっていうのは、目標とする料理に、いったいどんな調味料が使われているのかを把握すること。その後の調整は自分で試すものだ。
「それでもって、俺は今さっき肉に対して、どのぐらいの塩加減を目安にすればいいかっていうのを伝えてる。ならもうこの味を再現するのは簡単になったろ?」
「ま、まぁ確かに……。」
「さ、味も盗めたんだし、難しい顔してないでどんどん食べたほうが良いんじゃないか?」
そう言った途端に、ランさんとグレイスが頬をパンパンに膨らませながら、こちらに空になったお茶碗を差し出してくる。
「おかわりっ!!」
「おかわりっす!!」
「んむっ、妾ももらうぞ!!」
ランさんとグレイスに感化されて、ミクモさんもおかわりを要求してきた。
「な?言ったろ?」
「あぁ、そうだねぇ。じゃっ、本腰入れていただくよっ!!」
おかわりを要求してきた3人のご飯を盛り付けながら、いつものように食事を楽しみ始めたドーナを眺めて、ほっこりとしていると、シアとメリッサの2人も空になったお茶碗をこっちに持ってきた。
「お兄ちゃんおかわり欲しい!!」
「ぱぱ…おかわりほしい。」
「はいはい、2人もいっぱい食べててえらいな。」
「えへへ〜、だってお兄ちゃんのお料理全部美味しいんだもん!!」
「うん…しあちゃんのいうとおり。」
「そっかそっか、ありがとう。ほい、おかわりのご飯な。」
「ありがと〜!!」
「まだまだ…たべる!」
2人の後に続いて、俺もミクモさん達の分のおかわりを届けると、彼女達は山盛りのご飯と肉を交互にバックバックと、凄まじい勢いで食べ進めていた。
「アタシもこんな料理が作れるようになるかねぇ……。」
みんなが美味しそうに食べる姿を見て、ドーナがポツリと言った。
「諦めなきゃなれるさ。俺だって諦めずにやり続けたからなれたんだ。」
「そっか、そうだよねぇ。」
決意に満ちあふれた目で、ドーナも夕食を食べ進めていった。
結局その日、ブルーフレイムガリトンはみんなの中でかなり評判が良かったようで、おかわりのご飯が足りなくなったので、炊き直すこととなってしまったのだった。
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