繋がる二つの国


 種族間を隔てる壁を破壊し、お互いの国を行き来できる道を作ることを決断してから、エートリヒの行動は早かった。


 その道を通るには厳正な審査の上、毎月更新される許可証を携帯していなければならないと法を定め、壁を破壊し、道を作るために必要な業者の手配もあっという間にやってのけてしまったのだ。


 そして本日……ついにこの壁が破壊される現場に俺達は訪れていた。


「ついにこの壁が壊される時が来たのだな。」


 俺の隣で感慨深そうに壁を見上げながらシンが言った。


「良いのか?国に帰って、ちゃんと協議してから決めた方が良かったんじゃないのか?」


「心配無用、このことは既に話し合って決めていたことなのだ。」


「ならいいんだけどさ。」


 すると、いよいよ壁の破壊が始まるようで、エートリヒが集めた魔法使いたちが一斉に魔法を唱え始めた。直後、大量の魔法が壁に向かって放たれ大きな爆発が巻き起こる。


「おぉ~派手にやるなぁ。」


「この壁は生半可な攻撃では壊れぬようになっている。幼き頃、よくこの壁に拳を打ち付けて鍛えたものだ。」


 そう言ってシンは自分の拳を握り固めた。彼が感傷に浸っている最中にも、爆煙が徐々に晴れていく。


「傷一つつかないか。とんでもない硬さだ。」


 あれだけ魔法を撃ち込まれたというのに、壁には傷一つついていなかった。その現実にエートリヒがギリリ歯ぎしりする。


「もう一度。」


 彼の号令と共に再び魔法が何度も何度も放たれていく。


 そんな光景を見て、俺の隣でおにぎりを食べていたレイが呆れたように呟いた。


「これでは何百年かかるかわからんのぉ~。」


「レイならなんとかできるのか?」


「主のお願いとあれば、ワシが破壊してくれよう。」


「じゃあやってみてくれないか?」


「承知したのじゃ!!」


 残っていたおにぎりを口の中に放り込むと、レイが意気揚々と歩いて行く。


「下がっているのじゃ、お主らでは埒があかぬ。」


 そう言って魔法使いたちを下がらせると。レイは右手を壁に向かって突き出した。すると彼女の手に小さな光の玉が生成される。その光の玉はゆっくりと彼女の手から離れると、壁の中に吸い込まれるように沈んでいった。


「焼き尽くせ。」


 レイがそうぽつりとつぶやいた瞬間、壁の内側から眩い光が溢れ、視界を覆いつくした。


「うっ、眩しっ……。」


 視界が徐々に戻ってくるとほぼ同時、風に乗って凄まじい熱気が流れてくる。


「なにが……起こった?」


 ちかちかする目を無理矢理開いてみると、レイが放った光の玉が吸い込まれていった壁が、大規模に熔けてしまっていた。溶けて滴り落ちる液体の向こう側には獣人族の国の景色が見えていた。


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