胃袋という人質


 ジルと飲み物をのみながら話をしていると、部屋の扉がコンコン…とノックされた。


「どうやら解体が終わったようです。」


「ずいぶん速いな。」


「珍しい魔物とはいえ、山羊は山羊ですからな。」


 ジルの言っていることはもっともだ。料理人の観点から言わせてもらえば、いくら珍しい魚でも三枚おろしが通用するのであればただの魚……ということだ。


「では行きますか?」


「あぁ、頼む。」


 出された飲み物を飲み干して、俺達はジルの後に続いた。

 そして解体場に再び赴くとグリズが待っていた。


「ジルさん依頼の魔物解体しておいたぜ。にしてもまるで夢みたいだ……。ここ最近でサラマンダーと、ミストゴートを触れるなんてな。」


「ほっほっ、どちらもここにいらっしゃるヒイラギ様のお陰ですな。」


「まったくだ。人間の勇者様って、シン様に祭り上げられてたのは伊達じゃないな。」


「やめてくれ、その勇者って呼ばれ方はあんまり好きじゃない。」


 ここにきてからというものの勇者と呼ばれることが多い。黙ってヒイラギと呼んでほしいんだがな。


 そういう呼ばれ方は性に合わないのだ。


「あらあら勇者さまったら恥ずかしがっちゃって~♪」


「勇者様もやっぱりかわいいとこあるんだねぇ~。」


 俺が恥ずかしがっていると、二人がここぞとばかりに弄ってくる。

 二人がその気ならこっちにも考えはあるんだぞ?


「二人とも今日のな?」


「えっ!?あっ…じょ、冗談よ~。だから許して?ねっ?」


「ほ、ホントに冗談なんだよ~!!」


 俺の言葉に二人が焦り始めた。自分の胃袋が人質に取られていることを、改めて実感しただろう。


「まぁ、今後の態度次第だな。」


「「そんなぁ~……。」」


 二人はこの世の終わりのような表情を浮かべ始めた。


 まったく、先ほどの威勢はどこへやら。まぁ晩御飯抜きというのも冗談なんだがな。


 さっきのお返しとしてこれは黙っておこう。


「それではヒイラギ様、こちらが解体されたミストゴートでございます。」


 ジルから各部位ごとに綺麗に解体されたミストゴートを受け取る。

 毛皮も綺麗に剥がれているな。これなら後はミクモに任せてもいいだろう。


 どんな袴が出来上がるのか楽しみだな。


「ありがとう助かったよ。」


「いえいえ、こちらこそ良い体験を幾度もさせていただいておりますので。ぜひぜひまたお越しください。」


「あぁ、もちろんだ。」


 ジルに見送られて俺達は店を後にした。さて、次はいよいよミクモのところに行かないとな。

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