食欲は時に威厳に勝る
獣人族の食文化のことをシンから聞いていると、何やら彼は物欲しそうな目で頼みごとをしてきた。
「それで……だ。ヒイラギに我から折り入って頼みがあるのだが…。」
「ベルグ達に作ったものを作ってくれってか?」
「むっ!?何でわかったのだ?」
「こんだけ前振りされればな、鈍い俺でも流石にわかるぞ?」
そう俺が言うと、彼は少し恥ずかしそうに言った。
「そうか…いや、我も生まれてこのかた基本的に生の肉しか食ってきておらぬ故、ベルグからその話を聞いたときにどうしても食ってみたくなってしまったのだ。」
なるほどな、今の今までずっと生肉しか食べていないとなれば……そういった煮る、焼く等の調理を加えた肉に興味が湧くのは当然と言っては当然…なのだろうか。
「一国を預かる王としてこんなお願いをすることはどうかと思ったんだが、どうしても食ってみたいのだ!!」
王としての威厳よりも食欲が勝ったんだな。案外食欲というのは誘惑が強いもので、時として何物にも変えがたいものになるときがある。
彼の場合はそれが今だったのだろう。
「別にいいぞ。その代わり、食材はちゃんと用意してほしい。」
「本当にいいのか!?食材ならば任せるがよい。最高のものを用意してみせると約束しようではないか!!」
「お、おう…ほどほどにな。」
シンのその喜びように少し唖然としながらもそう言った。食糧難の話はどこへやら…まぁ今はまだ大丈夫なのだろうな。
さて、そろそろ風呂からあがらないとシンがのぼせてしまいそうになっている。
俺は長風呂な人間だから長時間風呂にはいるのは構わないが、シンはさっきと比べるとみるみる顔が赤くなり始めていた。
まぁ俺が来る前から入っていたようだからな。ここは無理をさせないように少し早めにあがるとするか。
「さてシン、俺はそろそろあがるが…まだ入っているのか?」
「いや、我もあがらせてもらおう。実はそろそろのぼせそうだったのだ。」
風呂の入り口に二人分掛けてあった布で体についていた水をしっかりと拭き取って上がった。一方シンは犬や猫と同じように体をブルブルと高速で震わせ水を吹き飛ばしていた。
(ちょっとこれは面白い。)
シンのそんな面白い光景を見ながら、俺は新しく用意されていた服に着替えるのだった。
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