いざ獣人族の国へ


 朝食を食べ終えた俺たちは、シアの案内で森の中を歩いていた。


「こっちこっち~。」


 シアに手を引かれ更に森の奥へと進むと、巨大な岩を見つけることができた。するとシアがその岩の裏に回り、地面を叩く。


「ここからシアは来たの~。」


 一見何の変哲もない地面だ。シアはその地面を横にスライドさせた……すると下へと続く階段が現れたのだ。


「こんなところにこんなものがあったなんてねぇ。今の今まで全然気が付かなかったよ。」


 これだけ自然にカモフラージュされていたのだ、気が付かないのも無理はないだろう。しかしそれにしても……。


「かなり狭そうだな。」


 試しに階段を下りてみるが、大人一人がやっと通れるような狭い通路だ。一列になって進むしかないだろう。

 先頭になって進んでみたが、中が暗く狭いだけで危険は特になさそうだ。


 一先ず持参してきた懐中電灯で前を照らしながら進む。


「シアはよくこんな暗い道を進んでこれたな。」


「怖かったけど、真っすぐの道だったから大丈夫だったの~。」


 真っすぐか、シアの話によると分かれ道とかはないらしい。分かりやすくてありがたいな。


「一本道らしいから迷うことは無いはずだが、念のため言っておく。しっかり後ろをついてきてくれ。もし何か問題が発生したら、すぐに大声を出して知らせるんだぞ。」


「わかったわ。」


「了解だよ。」


 この狭い空間で、もし何かに襲われたら大変だからな。念のため声をかけておく。警戒しながら、狭い通路を先へ先へと進むのだった。











獣人族side


「ガルド、現在の被害状況を報告せよ。」


 玉座に座るライオンの獣人が灰色の毛並みの狼の獣人にそう言った。


「はっ、現在入っています情報によれば…わが軍の前線部隊はまだ死の軍勢と戦ってはおりますが、連日の戦闘により少しづつ犠牲が出ている模様です。前線の集落のいくつかが死の軍勢の魔物によって壊滅しました。」


 狼の獣人がライオンの獣人にそう報告すると、ライオンの獣人はダンッと拳を叩きつけた。


「クソッ、好き放題やってくれる。」


 彼のいら立ちの理由はほかにもあった。


「こうなったら我も前線に行って戦おうではないか!!」


「いけません、シン様の力は強大ですが…もし御身に何かあったら、いかがされるおつもりですか?今、シン様を失ってしまえば、民や兵士の士気が下がるのは確実です。もしそうなってしまえば一気にこの国が滅ぼされる可能性だってあるのですよ!?」


 狼の獣人の言っていることは至極真っ当で、ライオンの獣人は何も言い返すことはできなかった。


「ぐっ、民や兵士が今も脅威にさらされているというのに動けんとは……我は自分の地位を呪いたいぞ。」


 彼がいら立っているもう一つの理由がこれだ。彼は獣人族の中で一番強い力を持っている故に、この玉座に座ることを許されている。


 しかし、それゆえに縛られているのだ。本当なら今すぐにでも前線に駆け付け、兵士とともに魔物と戦いたいが……王という身分に阻まれ行くことができない。

 このジレンマが彼をさらにいらだたせていた。


(何か……何かないのか?我が前線に行けるような何かがッ!!)


 そんなことをひたすらに考える彼だが、この後そのが本当に起こるとは思ってもいなかった。

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