試合開始


 ミノンの掛け声で拳を構えた俺の姿を見て、ギャラリーがざわめき出す。


「あいつ素手だぜ!?」


「いくらなんでも無理があるだろ!!」


 観客からはなかなかどうして冷やかな声が送られてくる。そんな俺にミノンが問いかけてくる。


「あなたは素手でいいんですね?」


「充分だ。」


「わかりました。それでは試合はじめッ!!」


 開始の合図と共に、セドルが大地を蹴り大剣を振りかざす。


 性格と違って身体の中心がぶれていない、いい攻撃だ。まぁ、当たってやるつもりはないが。


 上段からの斬擊を少し身体を捻って躱す。


「…ッ、せあッ!!」


 しかし斬擊はまだ空を切らなかった。躱された瞬間に振り抜いた剣を止め横凪ぎをしてきた。


「フッ!!」


 身体を思い切り背面に反らせ、後ろ向きにかかる遠心力を足の爪先に乗せて、セドルのアゴを下から蹴りあげた。


「がっ!?ぐっ……。」


 上に向かって蹴り抜いた威力をそのままにバク転し、着地する。


 そのまま畳み掛けても良かったが……ここはあえて


 顎を蹴り抜かれ、ふらつくセドルへと俺は言葉をかける。


「ずいぶんふらついているが大丈夫か?」


 するとセドルは、安い挑発に簡単に乗ってきた。


「銀級の分際でッ!!」


 未だにふらついている身体から繰り出される一撃は、中心がブレていてとてもお粗末なものだった。

 単純な力だけで繰り出している攻撃、そんなものは恰好の獲物でしかない。


「そらよッ!!」


 一歩で間合いを詰め、剣をつかんでいるセドルの両手を掴み取り、足を払って体を持ち上げる。いわゆる一本背負いだ。


「ッ!!ガハッ!!」


 セドルは受け身をとる間もなく、思い切り背中を地面に叩きつけられた。

 この衝撃だと、マトモに呼吸することも相当キツいはずだ。


 絶好の追撃のチャンスだが、俺は地面を這うセドルを見下ろして動かない。


「苦しいか?横隔膜が麻痺してるからキツイだろ?」


「ぐぎッ…ぎざ、ま゛ッ!!」


 セドルは必死に声を絞り出して、俺の事を睨んできた。その目には明らかな殺意が宿っている。


「まだ喋れるのか、なかなかタフだな。」


 セドルが一方的にやられて、シン……と静まり返っている最中、彼が立ち上がるのを俺はずっと何もせず待っていた。

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