暗闇での再会
「ん、ここは……どこだ?」
ふと目を覚ますと、目の前には暗い空間がどこまでも広がっていた。この光景には見覚えがある。まるで、チュートリアルの時のような空間だ。
「また、死んだのか?」
散桜を使って……持てる全てを出し尽くし、限界になったのは覚えているが…その先はわからない。
「どうすればいいかわかんないし、とりあえず歩き回ってみるか。」
ヒタヒタと裸足で暗い空間を歩き回る。足をついている床はとても冷たい。歩き回っていると、また見たことのあるものを見つけた。
「これは、あのときのヒビだよな。」
目の前の空間に大きな亀裂が入っている。チュートリアルで見たときよりも遥かに大きなものだ。
「なんでこんなに大きいんだ?」
近付いて中を覗き込むと、そこにはやはりどこかの情景が映し出されていた。
「これは。」
チュートリアルで見たものとは違い、そこには激しく燃え盛る森と逃げ惑う獣人族のような人達の姿が映し出されていた。
「ど、どうなって……。」
まさか、これは今の獣人族達の状況を映し出しているのか!?だとしたら……この状況はかなり不味い。
「ここから早く出ないと!!クソ、どうすればいいんだ。」
ダン……と強く拳をヒビへと向かって打ち付ける。
するとヒビが唐突に割れ、そこから1人の女性が姿を現した。その人は俺がよく知っている人だった。
「相変わらずせっかちだな
「し、師匠?どうして……ここに。」
そう、ヒビの中から姿を現したのは、俺の扱う武術の師匠である八雲(やくも)静葉(しずは)だった。
だが、師匠は二年前に……。
「まぁ、相変わらずなお前に説教をしようと思ってな。柊……散桜を使ったんだな?」
「……はい。」
「あれは寿命を縮める技だと教えたはずだぞ?」
「……はい。」
散桜は自身の身体能力を大幅に引き上げる代わりに、心臓に大きな負担がかかる。そのため俺が師匠にこの技を教えられたとき、寿命を縮める技だと教えられていた。
「お前は昔からそうだが、些か正義感が強すぎる。仲間を守りたいと思う気持ちは私にだってわかる。だがな、強すぎる正義感というのは時に仲間を傷付けるときもあるのだ。」
そう教えを説きながら、俺の周りをぐるぐると師匠は周り歩く。
「柊、誰かに守られる者の気持ちというのを考えたことはあるか?」
「ない……です。」
「では少しわかりやすい例を出してやろうか。例えば、私が悪党と戦い……お前を庇って傷を負った。その時お前は何を思う?」
「自分も戦えれば師匠は…………あ。」
「ん、気付いたな。守られた仲間は誰しもが喜ぶわけではない。時にはお前のように自分も力になれれば……と自分の無力さを責める者もいる。」
そう語りながら、俺の前で歩みを止めた師匠はポン……と頭に手を置いてくれた。
「頑張ることは良いことだが、もう少しお前は周りを頼れ。頼れる仲間はいるんだろう?」
「っ、はい。」
「うん、いい返事だ。」
温かい手でわしゃわしゃと俺の頭を撫でると、師匠はクルリとこちらに背を向けた。
「さて、お前に説きたかったことも伝え終えた。私はもう行くぞ。」
「ま、待ってくださ……んぐっ!!」
立ち止まらせようと声を上げようとすると、突然口を手で塞がれる。そして少しこちらを振り返った師匠は、イタズラに笑った。
「その先は言うなよ?なにせ私は
そう口にすると、急に師匠の背後から強烈な光が溢れ始める。
「くれぐれも、自分と仲間を大事にするんだぞ?私との約束だ。」
その言葉を最後に、彼女は光りに包まれて俺の前から消えた。
俺は先程まで師匠が立っていた場所の奥から溢れ出す光を見つめながら、ポツリと言った。
「ありがとう……ございました。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます