辛勝


「た、助けて下さいぃ!!」


「大丈夫だ、そこでじっとしてろ。」


 慌てふためくウォータードラゴンの前に立つと、右手を火球へと向かって突き出す。


「ウォーターブレス!!」


 直後右手から大質量の水が放たれる。それはレスの火球とぶつかると、大量の水蒸気となって相殺された。


 辺り一帯に水蒸気が広がり視界がとりにくいが、今の俺には好都合だ。


「くッ!!どうなった!!」


「こうなったんだよ。」


 水蒸気に紛れてレスの背後を取る。


「小賢しい!!」


 俺の声を頼りに放たれた裏拳を屈んで躱すと、右手でまたブレスの構えを取る。


「サンダーブレス……。」


 右手の手のひらに雷の球が一瞬にして精製された。それが放たれる直前に力強く握り込む。

 すると、行き場を失ったサンダーブレスは俺の手の周りでバチバチと帯電し始めたのだ。


「今度は蘇るんじゃないぞっ!!」


 サンダーブレスを纏った拳をレスに打ち付ける。


『破槌』


 サンダーブレスを纏った破槌は、レスの体に触れた瞬間から奴の体を崩壊させ、最終的には跡形も残さずに消し去った。


 今度こそ終わりだ。空からあの不気味な声も聞こえない。


「かっ…た。」


 散桜を解くと、足に力が入らず地面に倒れた。


 全身の筋肉がまだボロボロだ。超回復でもカバーしきれていなかったのか。


 仰向けになって空を眺めていると、コロコロと光輝く宝玉が顔の近くに転がってきた。


「これは、あいつの宝玉か?」


 残った気力で俺はそれに向かって鑑定を使う。


『鑑定』


・ディザスターデーモンの宝玉


 さらに詳しく鑑定して、この中に求めていたとあるスキルを発見した。


「ははっ、やっ…たぞ。」


 その宝玉には言語理解のスキルがついていたのだ。ズキズキと痛む手でそれをマジックバッグへとしまう。


「これでようやくシアも…一緒に……。」


 そこで俺の意識は途切れた。







???side


「イース様、レスが例の転生者に敗れました。」


「※※※※※※※※※※※※※※※」


「はっ、ただちに……。」


 そして死の女神イースは姿を消した。


 辺りを静寂が包んだ。それもそのはずで、ここにはたった一匹の魔物しかいない。


 イースと話をした部屋をその魔物は後にした。そして、円卓のある部屋に入る。

 その部屋では何人かがその魔物を待っていた。


「よう、おそかったじゃねぇか。」


「イース様へのご報告が終わった。」


「それにしてもレスがやられるなんて、相当強いのねその転生者。」


「あぁ、血の盟約を成し遂げたレスでも敵わない相手だ。これからの侵略での大きな障害になるだろう。一先ずは、獣人族に戦力を集中させろとのお告げだ。」


「なるほどねぇ、取りあえず1つ潰しておくって感じか。」


「あいつらはバカが多いから、少し策をはれば簡単に潰せるんじゃなぁい?」


「うむ、ではこれより獣人族への侵略を開始する。女神イースの名のもとに。」


「「女神イースの名のもとに。」」


 その一言で死の女神の魔物達の集会は終わった。

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