血の盟約


 突如として天から不気味な声が響いた。


「血の盟約?」


 その声が響いた直後、レスの亡骸に変化が起きた。血の魔法陣から不気味な光が出始めレスを包み込み始めたのだ。


 レスの体を不気味な光が覆い尽くすと、それはまるで心臓のようにドクドクと脈打った。そしてパン……と光が突然弾けると、そこから1体のおぞましい魔物が姿を現した。


《個体名レスを種族名に進化しました。》


 再び空から不気味な声が響く。そしてその声曰く進化したレスが口を開いた。


「さっきは世話になったな転生者。」


 こいつは不味い……俺の第六感が全力で死の危険を伝えてくる。だが、引くわけにはいかない。


 更に警戒を強め、レスの一挙手一投足を見逃さないように注視していた。しかし……。


「そんなに怯えるな、これでは戦いにならない。」


 と、唐突に後ろから声がした。


「ッ!!」


 バッと振り返るとそこにはレスが立っていた。音もなく、移動する瞬間も挙動も見えなかった。


「随分進化したみたいだな。」


「ククク、おかげさまでな。さぁ戦いを始めようか?」


 絶望の第2ラウンドの火蓋が切り落とされた。


「フッ!!」


 先に動かれたらまず避けることは不可能。ならこちらから仕掛けるしかない。そう踏んだ俺は、縮地で距離を詰め奴の水月に拳を叩き込んだ。


「どうした?」


「なッ!!」


 モロにくらっているはずだが、奴は平然としている。


「今度はこちらの番だな。」


 次の瞬間レスの右手がかき消えた。それとほぼ同時に俺の水月にレスの拳が深くめり込んでいた。


「ぐぶっ……ガハッ!!」


 一瞬で口のなかを血が満たし、それを吐き出した。強烈な痛みが腹部を襲っている。胃のあたりが焼けるように痛い……今ので胃がやられたらしい。


「ぐあぁっ!!ッツ!!」


 痛みを気合でこらえ構えをとり、レスを睨み付けた。


 奴の表情には格上特有の明らかな余裕と、歪な笑みが張り付いていた。


「ずいぶん痛そうじゃないか?これは情だ……今楽にしてやる。」


 まただ、また目の前からレスが消えた。同時に後ろから殺気を感じた時にはもう遅かった。


 首に襲いかかる強い衝撃……急速に意識が遠のく。


 だが、暗くなっていく意識の中……みんなの姿が何故かとても鮮明に浮かんできた。


(まだだ、俺がやられたらコイツはみんなを……。)


 


「ッ!!ああ゛ッ!!」


 遠のく意識を気合で繋ぎ止める。そして反射的に体を動かし、衝撃を受けた方向へ体を回転させて攻撃の威力を流した。


「情をかけてやったというのに……そんなに苦しんで死にたいのか?」


「違うな、死にたいわけじゃない。お前にはんだよ。…………師匠、アレ使います。奥義……


 俺は人間という存在が体にかけている鍵を解き放った。

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