影の獣
ミルタという行商人をハウスキットの中に招き入れた。内装に驚いている彼に、ドーナが声を掛ける。
「ん?あんたミルタじゃないか。」
「おぉ!!ドーナさんではないですか。」
どうやら二人は顔見知りのようだ。
「知り合いか?」
「ギルドのお得意様ってやつでね、何回も依頼をもらってたんだよ。」
なるほどな、そういうことだったか。
「んで、こんな時間にこんなところでなにしてんだい?」
「いやはや、強い魔物に襲われましてな。馬車は壊され、護衛には逃げられました。」
「ん~?この辺にそんなに強い魔物なんていなかったはずだけどねぇ。」
「はい、私もそう存じておりました。ですがあれは間違いなく
「なっ!?
シャドウタイガー?魔物図鑑を引っ張りだしパラパラとページをめくる。
……こいつか。
災害指定魔物 シャドウタイガー
・影を操る魔法を使う。
・発見された場合金級以上の冒険者5名以上で対処にあたること。
・死の軍勢と共に現れたという報告あり。
ふむ、影を操るか……厄介そうな魔物だな。
図鑑を眺めながらそう思っていると、ハウスキットの外から嫌な感じの殺気を感じた。
「…………噂をすればか。」
多分、ミルタさんが後をつけられていたのだろう。
俺は一人立ち上がると、ドアに手をかけた。
「みんな、外に出るなよ?」
そう言い残して、ドアを開けた次の瞬間だった。
「ッ!!」
先程まで俺の首があった位置でガチンという音が聞こえた。
とっさにしゃがんだため怪我はない。
「ふぅ、危ない。」
音もない奇襲……しかも急所の首を狙ってくるか。恐らくは普段の狩りの方法も、こんな感じなのだろうな。
「姿が見えないな。足音も聞こえない。」
こういう暗闇での戦闘はあの時を思い出すな。
合気柔術の修行では目隠しをして組手をすることがある。
視界を封じることによって、自分の間合いの意識を引き上げる訓練なのだ。
「さて、どこから来る。」
構えを変え、左手を前にだし右手を完全に脱力させる。そして最後に目を閉じる……。
視覚を捨て、他の感覚を尖らせる。すると暗闇の中に1つの禍々しい気配を感じとることができた。
「後ろか。」
迫ってくる気配に左手を当て、迫り来る軌道をそらす。そして、脱力状態からの急加速による最速の拳を叩き込んだ。
「ギャウゥ!?」
「逃がさん。」
空中で体を回転させ、体勢を立て直そうとしている所に追い討ちをかける。
顎部分に手を当て、回転のエネルギーと俺のエネルギーをプラスして地面に頭を叩きつける。
「逆落としっ!!」
地面に叩きつけるとゴギャン!!と骨が折れる音が聞こえる。
いまので決まりだ。
少しの間ピクピクと動いていたシャドウタイガーだったが……すぐに動かなくなった。
周囲の安全を確認していると、コツン……と爪先に何かが当たった。
「ん?これは宝玉か、しまっておこう。」
またしても宝玉がドロップしてしまった。コレの使い道も後で考えよう。
周囲に危険がないことを改めてしっかりと確認した後、俺はハウスキットの中へと戻るのだった。
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