異世界の市場


 マトマの実を購入した後、いろいろなものを吟味しながら市場を歩いていると、何やら果実の甘い香りが漂ってきた。


 吸い込まれるようにその発生源である果物屋さんに入ると、そこには見たこともない果実がたくさん並んでいた。


「おっ!!なんだこれ?」


 気になったのは、まるでブドウのようにイチゴが房にたくさん実っている果実。鈴なりのイチゴは見たことがあるが、こんな葡萄みたいに実っているものは初めて見た。


「それはベリリの実だ。甘酸っぱくて美味しいんだ。」


 うん面白い、これは買いだ。ケーキとかにも使えそうだからな。


「これを貰おう、あとそこの果物を3個くれ。」


 ベリリの実のほかに、俺はもう一つ果実を指さして購入する。


「はいよアプルの実も3個ね、全部で銀貨5枚だ。」


「これで頼む。」


 店主に銀貨5枚を渡し、ベリリの実とアプルの実を受けとる。


「まいどっ、また来てくれよ~。」


 店を後にし、俺はシアに先ほど買ったアプルの実を一つ手渡した。


「ほら、これ食べたかったんだろ?」


「えっ!!ヒイラギお兄さん、なんでわかったの?」


「ずっと見てたからな。もし欲しいのがあったら言っていいからな。」


「お兄さんありがとう!!いただきま~す!!」


 シアはアプルの実を両手で持つと、小さい口でかぶりつく。かじる度にしゃくしゃくといい音が鳴り、果汁が霧状になってシアの口元で舞っている。


「あみゃぁい……おいし~♪」


 シアはシャクシャクと小気味の良い音を響かせながら、アプルの実をさぞかし美味しそうに食べている。後で俺も食べてみようかな。


「さて、次は肉屋か魚屋に行くか。」


 シアの歩幅に合わせながら肉屋を目指す。少し歩いて目前に見えてきたのは魚屋だった。


「あれは魚屋だな。」


 朝一で来たわけじゃないから、よさげなのは全部買われてるかな?でものぞいてみる価値はありそうだな。


 俺とシアは魚屋の前で足を止め店の中をのぞく。すると頭にハチマキをまいた威勢の良さそうな店主が店の奥から出てきた。


「へいらっしゃい。お兄さん方っ、何をお探しでっ?」


「あぁ、少し大きめの魚を探しているんだが、何か残ってないか?」


「それならこいつはどうだいっと!!」


 店主が持ってきた魚は、日本にいたときに散々目にした魚に酷似していた。


「何でカツオがこの世界に。」


「お兄さん惜しいね。こいつはってんだ。刺身で良し、煮てよし焼いてよしの万能魚なんだぜ?」


「ふむ、ならそいつを貰おうか。」


「あいよっ、それじゃあ銀貨50枚だ。」


「金貨一枚で頼む。」


「んじゃ、これがお釣りの銀貨50枚とカグロだ。」


 店主は氷が敷き詰められた袋にカグロという魚を入れて手渡してくれた。持ってみると、ずっしりとした重量感が伝わってくる。氷の重量を差し引いてもかなり重そうだ。


「ありがとう。また来る。」


 店を出て少し歩くと、シアが俺が手に持っていたカグロを見て目を輝かせていた。


「ふわぁぁ、おっきいお魚さん!!」


 興奮してかぶっているフードが前後している。おそらく耳がピョコピョコ動いているのだろう。


「魚は好きか?」


 おもむろにシアに問いかけると、シアは何度も首を縦に振った。


「うん大好きっ!!」


「そうか、なら後で魚料理作ってやるからな。」


「やったあ!!」


 ぴょんぴょん跳び跳ねながらシアは全身で喜びを表す。子供らしくてとても可愛らしい。


 さて、肉の代わりに魚を買ったし、あとは卵だけ買えば大丈夫そうだな。それから二人で市場のさまざまな店を見ながら、奥の方へ歩いていった。

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