最強のルーキー
「さ、これで俺の勝ちだな?」
拳を突き付けながら俺はドーナに問いかける。
「はぁ~、文句なしでアタイの敗けだ。寸止めされなかったら死んでたよ。」
ドーナが悔しそうにぼやいた。それと同時に観客席から歓声が上がる。
「これで実技試験は終了でいいのか?」
「あぁそうだね、これで終わり。後はアタイが冒険者のランクを決めるだけさ。」
我ながらなかなかいい結果を残せたからな、飛び級は確定だろう。
そんなことを思っているとドーナが俺のランクを告げた。
「ヒイラギのランクは、とりあえず銀にしようかねぇ。」
「銀……銅級の一つ上?」
「そっ、まぁアタイに勝ったから実力的に金級から始めても良いと思ったけど、ヒイラギはまだ冒険者の勝手がわかんないだろうから、一先ず銀級で慣れてほしいって意味を込めての銀だ。」
なるほど、金級じゃなく銀級にしたのはそういう理由があったのか。彼女なりに俺のことを考えたうえでの判断だったようだ。
「わかった。」
「ま、その腕なら慣れたらすぐにでも金級に上がれるさ。アタイが保証する。」
おかげさまでドーナのお墨付きももらえた。
実技試験も終わったしこれで一先ず終わりだなと、安心していた俺だったが、不意に彼女に肩を鷲掴みにされた。
「さて、じゃあ早速だけどちょっと付き合ってもらおうかねぇ~。」
「まだ何かするのか?」
「まぁ、なにも聞かずにちょっと付き合いなよ。」
俺はそのままドーナにズルズルと引きずられて、闘技場を後にする。更にはギルドをも……。
街中を引きずられている最中、俺は彼女に問いかける。
「ちょっ、どこに連れてくつもりなんだ?」
「アタイのお気に入りの店さ、せっかくだから飲みながらいろいろ教えておくれよ。」
そうして連れてこられたのは、この世界の料理店だった。ここがドーナのお気に入りのお店らしい。中へ入ると、すぐにピシッとした服に身を包んだ店員がやって来て俺たちを個室へと案内する。
「もちろん酒は飲めるんだろ?」
「まぁ、人並みには。」
「それを聞いて安心したよ。じゃあアタイは葡萄酒一つ。」
なんの迷いもなく彼女は葡萄酒を注文する。葡萄という言葉から察するに、ワインのようなものだろうか?
「ヒイラギはどうするんだい?」
「そうだな。俺も同じのを頼もう。」
通いなれているドーナが頼むのだ、美味しいのは間違いない。それからまもなくして葡萄酒が運び込まれてきた。
「少し濁ってるんだな。」
「ここのは特別でねぇ、新鮮な葡萄の果肉を入れてくれてるんだ。ま、飲んでみなよ。」
「あぁ、いただくよ。」
一口その葡萄酒を口に含むと豊潤な香りが鼻を抜け、凝縮された甘味が口に広がる。ワインより少し酸味は少なめで親しみやすい味だ。
「うん、美味しい。」
「だろ?ほらほら、ここは酒だけじゃなく料理も美味しいんだ。早く頼んで食べようじゃないかい。」
そうして俺はこちらの異世界に来て初めての食事をドーナと共に味わったのだった。
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