第5話 わからないことはヘルプに聞け
もう金に困ることはない、戦争なんか知らん、他の神とかも知らん、一生安泰だ!
そんなことを考えている時代が俺にもありました。
この世界は、俺がここに転移されたと同時に作られた。つまり、生成されてから数時間しか経っていない出来立てほやほやだったんだ……。
要は金の使い道が……ない……。
それに気付いた俺は絶望の底に叩き落され、やけになって、さっき以上に草原でだらけている時だった。
「あなたが、神様ですか?」
中腰になって、俺の顔を覗き込むのは獣人の女の子だ。
人と同じような顔をして、柔らかそうな猫の耳を持ち、着ている衣服は灰色で質素な物だった。
俺の中から込み上げてくる高揚感。夢にまでみた獣人。
そんな俺の胸の高鳴りとは裏腹に、獣人の女の子は思案そうな表情を浮かべる。
長く伸びた髪の横から、細い尻尾がくねくねと姿を見せた。
触ってもいいのか? なでなでしちゃっていいのか? そんな葛藤をしている時、
「私、シエラって言います! 神様なんですよ、ね?」
はきはきとした、透き通る声で言った。
「あ……、えっとー、その……」
言葉が上手く出てこない。それもそうだ、面と向かって誰かと話したのは、いつだかわからないくらい昔の話だ。
いっそのこと、
あ、さっき話したか。
「俺が……神です……」
やっとの思いで言葉を吐き出した。
シエラは表情を晴れやかにすると、「やっぱり」と言って後ろを向く。
「みんなー! いたよー! 神様、いたよー!」
大きな声で叫んだ。
すると──地鳴りが響いた。ドドドドドドドッと轟音を鳴らしながら大量の“何か”が近づいてくる。
ちょっと待ってちょっと待って! 何これ怖い怖い怖い怖い。
俺は慌てて立ち上がり逃げようと試みたが、足がもつれて不様に転んだ。「ぐへっ」とだらしない声が漏れる。
地鳴りの正体は無数の人だ。言葉にならない声を上げながら、どんどん集まってくる。どんどん……どんどん……。
俺は死を覚悟した。あの人の大群に蹂躙され、ここらに生えてる草のように、その命を全うするんだ。
僅か数時間、短い神人生だった。
しかし、その瞬間は訪れなかった。俺はなす術なく彼らに捕まり、空高く飛んだからだ。
「うぉぉぉぉおぉおぉ!」
「俺たちの神だ!」
「神さまぁー!」
鼓膜が破れるほどの歓喜の叫びだった。
頼む、下ろしてくれ。俺を敬うなら下ろしてくれ!
一頻り空の旅が終わると、ようやく胴上げから解放されたが、
「神様! 俺たちは何をすればいい?」
「ねぇ、私は私は⁉︎」
人が次々と押し寄せてくる。揉みくちゃにされて、どうしたらいいか分からない。
やめてくれ! 人混みや人の視線には慣れてないんだ!
「な、なぁ、とりあえず落ち着こう」
どうにか絞り出した言葉だった。できることなら大声で叫びたい。「ニートの俺に聞くんじゃねぇ!」と。
○
【ステータス】画面に表示された人口の合計人数、男5381、女4619。
10000人に達していた……。
これ全部集まってるのかな?
彼らは俺を中心に大きな円を作り、各々があぐらをかいたり正座をしたりしている。
先程の事態は、「考えたいことがあるから静かにしててくれ」、その一言ですんなり収束してしまった。
なんとなくわかってきた。
神とはこの世界で絶対的存在で、彼らは
国力を上げるには、彼らを成長させていくべきなんだろうけど何をしたらいいんだ……? 訓練? 経験値上げ?
いや、まずこれからどうやって生活していったらいいんだ……?
【ヘルプ】に聞く? なんて聞けばいいんだ……。
とりあえずなんでもいい! 聞くだけ聞こう。
「神、初心者、助けて」
『神2358件。初心者1件。助けて0件の情報が見つかりました』
こ、個別検索……だと……。【ヘルプ】先生便利すぎぃ!
神たちの世界だけあって“神”は件数が多すぎるな……、自分で探した方が速いレベルだ。
俺は初心者でヒットした情報を開くと、まさに今必要な項目が目に映り込む――〈初心者の神への手引き〉。
こ、これだっ!
「どれどれ……まず初めに人を集めよう。次に衣食住を安定させよう。最後に戦争に挑もう……」
これだけ……? みじけぇよ! 全く役に立ってない! いやちょっとだけ、ほんのちょっとだけは役に立ったけど。
この分だと衣食住を【ヘルプ】で探しても適当な説明がかえってきそうだ。
服のこと、食べるもの、家のこと、みたいに……。
肝心などうするのかは教えてくれなさそうだな。辞書だ、
神が命じ、
住む場所は、家を作る? すぐにどうこう出来る問題じゃないな。しばらくは野宿か、雨風が防げそうな洞窟を見つけるか……。
衣服は、これも後回しだな。みんな似たり寄ったりの質素な服だが、目のやり場に困るというほど露出しているわけじゃないし。
衛生上、家よりは先になんとかしないといけないか。
俺も流石にずっとスウェット姿はちょっと……。
何よりは食料だ。まず、今日の分すらない。
加えて1人2人じゃなく1万人分か……。金さえ使えたらな……。
現実的な方法だと狩りや、採取になるのか。とはいえ周りに見えるのは、草原。
この草……食べられるかな……。食いたいとは思わないけど。
そうか! スキルか! スキルがあるじゃないか!
俺はようやくその考えに至った。
それにしても、周りの視線が気になる……。
彼らはヒソヒソと小言を立ててはいたが、俺の言葉を待つように、その場にずっと座っている。
「も、もうひょっとだけ、待っててくれ」
噛んだ……。恥ずかしい……。
彼らは何事もなかったかのように、俺に熱い視線を向け続ける。
早くしろ、と急かされてるようで嫌になるな。
俺はメニューから【スキル】を選択する。
「うわぁ、いっぱいあるな」
〈テレポート〉を始め、〈土質検査〉〈建築の心得〉〈剣術指導〉、中には〈髪の毛の扱い方〉などなど、ずらりと並んでいた。
こ、攻撃魔法、攻撃魔法はないのか⁉︎
狩りの基本は火力から! そう考えくまなく探してみるが……ない……だと……?
魔法であったのは、〈攻撃力強化〉や〈素早さ強化〉といった支援魔法だけだった。
「ん? 残ポイント4、使用ポイント0?」
ポイントを割り振って取得する感じなのかな。スキル1つ1ポイント? 4ポイントの可能性もあるのか。
こういう時は【ヘルプ】先生に、
「スキルについて」
『963件の情報が見つかりました』
なかなか多いな……。あ、そういうことね。
ずらっと並んだ情報を見て、俺は理解した。
1つ1つのスキルごとに情報化されていたからだ。確かにどんなスキルか分からなければ、選びようがない。
俺はその中の〈スキルについて〉と書かれた情報を選択する。
『スキルとは神のみが使える力。階層レベルに応じたスキルポイントが付与され、1つ1ポイントを消費して取得する。毎日0:00に取得したスキルはリセットされ、スキルポイントは返還される』
「なるほど。下手なスキルをとっても翌日には振り直しができるのか」
こうして俺は、なんどか【ヘルプ】先生とのやり取りを経て、〈テレポート〉〈鑑定〉〈念話〉〈水質検査〉のスキルを獲得した。
〈テレポート〉
・神自身と、神が触れる物なら自分の世界
のどこにでも移動することができる。
・生えてる木や、土台が必要な家など、地
面と密接しているのは物は不可能。
・転移結晶を9つまで作成できる。
・
・闘技場へ、自分が権利を待つ“思念体”の
移動をさせることができる。
〈鑑 定〉
・特定の人物の通常ステータスを見ること
ができる。
・特定の物の説明を見ることができる。
・神専用のステータスは見ることはできな
い。
〈念 話〉
・自分の世界にいる、特定の人物と頭の中
で会話ができる。
・【友達】に追加されている特定の人物
と、どこにいても頭の中で会話できる。
〈水質検査〉
・液状の物の成分を見ることができる。
・液状の物の人体への危険度を14段階で示
すことができる。
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