嫌われ女子高生は下克上したい
橘 汀
第1話 平凡女子高生はトリップしたい
「ああ〜もう最高!」
「歩きながら読んだら頭電柱にぶつけるわよ」
本屋から出るなり、買ったばかりのファンタジー小説を読みはじめた
有紗と奈子は高校の夏休み前の定期試験期間を無事に終え、帰宅する前に有紗ずっと我慢していた小説を買いにきたのだった。有紗がテスト期間中に何度も買いに行こうとしたが、奈子は有紗が小説を読みふけり絶対に勉強しなくなることを知っていたので、キツく注意していた。
やっとの思いで小説を手に取った有紗の喜びは感慨深い。
「帰宅部でよかった〜!部活してたら読むの遅くなってたもん」
「いや、たかが2時間くらいの差じゃない…しかもその小説あんまり有名じゃないし、どこがいいの…」
奈子の発言に対し、有紗はちょっと待ったと言わんばかりに足を止めてわざとらしく咳払いをした。有紗のプレゼンが始まる…と奈子は直感した。こうなると止まらない。
「有名とか有名じゃないとかそんなのいいの、ほら、人生であるじゃん?私にとってはこの本がそうなの。私に一番刺さるの。ときめくの!キュンキュンするの、ただのファンタジー小説じゃないの」
テンションが上がり、身振り手振りを交えまくし立てる有紗を見ながら、奈子はもうダメだ、と言わんばかりに盛大にため息をついた。
「奈子ちゃんにもぜひ読んでほしい!」
「気が向いたらね…」
遠い目をする奈子。絶対読まないだろう。奈子はクールなトーンで続ける。
「普段全然読書しないアンタがその本に大ハマりしてるのは分かった。まあ読書することは良いことだと思うし、大歓迎よ。でも一体何がそこまでアンタを動かすn「よくぞ聞いてくれました!!!!!!」まだ言ってないんですけど。」
奈子の話を遮った有紗は意気揚々と話を続ける。
読んでいた小説の巻頭にあるキャラクター紹介ページをめくり、奈子に突き出した。
「このお話には1人の可愛い可愛い天使のようなエリザベスちゃんと7人の王子が出てくるんだけどね、みんなとても素敵でね、私の推しは『
『
1人ずつキャラクターを指差しながら続けていく有紗。奈子は半分聞くことを諦めた。
「情報量多いな…まぁつまりイケメンしかいないのね」
「そういうこと!そしてなんて言っても、唯一無二のヒロイン、エリザベスちゃんです。みてこの大きな目、綺麗な髪の毛、華奢な体、天使のようでしょ!?」
有紗は美少女のイラストを指差しながら奈子に同意を求めた。
「まあイラストだからね…」
「『陽の国』の王子アーサーと『雷鳴の国』の王子スピーサはエリザベスちゃんと幼なじみでエリザベスちゃんのことをエリって呼んでるの、それがたぎる…わたしもエリって呼びたい…あ〜トリップとか出来たらいいのになぁ、あっちの世界にはテストもないもん。エリザベスちゃんとアフタヌーンティーして、アーサー王子と恋に落ちたい。」
「アンタ幸せだね…」
奈子がついたため息は夏の暑さに消えていった。
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