第7話屋上

「つーわけで、優香姉に聞いても解決策は分からないってさ」


青空の下、屋上でいつもの3人が弁当を食べている。


「マジかー、どうしたらいいんだろうな。俺達このまま何も出来ないまま卒業すんのかなー。つーか卒業出来るのか? 結構卒業までに落とされる奴も多いらしいからなぁ・・・」


大地は空を見上げる。


「そんな悲しい事言わないで・・・頑張ろうよ大地君」


「まだ入学したばっかりだろ!?」


「だってさー俺達クラスに居たら陰口叩かれるから、こうして屋上に逃げてきてるんだぜ」


「・・・それを言うなよ・・・。 仕方ないだろ弱いんだから・・・いつか絶対見返してやる」


「しかしなぁ、コアが使えないんじゃどうしようも・・・」


「あらあら無能同士で何を相談してるのかしら? 無駄だしうっとうしいから消えて下さる?」


屋上のドアが開きキャロルと剣が現れる。


「千里に謝りに来たのか? そうじゃねぇならお前らが消えろよ、俺達が先にいたんだ」


「け・い・ご。いい?これは命令ですのよ」


「うるせぇ」


にらみ合う2人。


「お・・・お弁当はもう済んだんだから行こうよ、ね?」


千里は2人の背中を押して歩き出す。

守と大地を出口まで押し込むと千里はキャロルの方を向いた。


「あの・・・キャロルさん私・・・貴方の補助員にはなりません。では」


キャロルは返事もせず無視する。


「予定通り本日決行致しますわ」


「畏まりました」


3人はいつも通り、放課後の特訓を続けていた。守と大地は基礎体力向上のため、走りこみや筋トレを日課にしている。

千里は魔力制御上昇のため集中力を上げるトレーニングを欠かさず行った。3人とも効果があるのか分からない、先の見えない特訓を毎日欠かさず続けた。


「はぁ・・・はぁ・・・今日はこの位にしようぜ。もう俺ら以外は下校しちまったようだぜ」


守は肩で息をしながら言う。


「はぁ・・・今日は京都大災厄の鎮魂日で19時完全下校だからな」


大地は着替え下校の準備を始める。


「あっ・・・。そういえば私、屋上にお弁当箱忘れて来たんだった! あの時慌てたから・・・後で取りに行こうって思ってたのに」


「ったく、千里は相変わらず抜けてんなぁ」


「もうっ、そんな事言わないでよね守君」


「んじゃまぁ、さっさっと皆で取りいこうぜ。お前暗いの苦手なんだろ」


「あはは・・・。ありがと」


3人は屋上へと向かう。




「では、始めますわ」


そう言ってキャロルは液体を床に撒き始める。すると床から赤い文字が浮かび上がってきた。


「不可視障壁・防音障壁・対龍障壁、いずれも正常に発動しています」


「では剣、擬似ゲートに魔力を注ぎ込みますわよ。練習通りの出力で注ぎ込めばクラス1のドラゴンの召還が成功するはずですわ。即時仕留めてコアを回収したら死体を消失させ痕跡を消しますわ。よろしくて?」


「はっ!」


2人は手を前に魔力を注ぎ込む。次第にゲートを中心に暴風が巻き起こり雷鳴が響く。


(順調ですわ、このままいけばーーー)


キャロルが少し安堵したその時。


ガチャ


「あれ? キャロルと・・・剣だっけ?お前ら何やって・・・」


「こっちの台詞ーーーってそんな事どうでもいいからさっさと閉めて消えて下さいまし!」


「どうしたの守君?」


後ろから現れた千里を見てキャロルは青ざめる。


「剣! 今すぐ魔力を止めなさ・・・」


そう言い終わる前にゲートから激しい閃光が走り目がくらむ。


目を上げるとそこには大型のドラゴンが青い息を吐きながらこちらを見ていた。


「チィッ! クラス2戦龍型・・・どうしてくれますの!? そこの女のダダ漏れ魔力のせいで、私の計画が失敗してしまいましたわ! この役立たず! クズ! バカ!」


キャロルは千里に罵声を浴びせる。


「落ち着いて下さい姫。今は目の前の敵に集中して下さい」


剣は刀を構える。


「あなた方も、死にたく無かったらさっさと逃げて下さいまし!」


キャロルも腰から2丁の拳銃を抜き構える。

 

「おい! お前らドラゴンの召還なんて正気か! 授業でやってたろ! 重罪だぞ!」


守はキャロルの背中を睨む。


「お・・・おい守! とりあえず俺らは先生を呼びにーーー」


大地は守の前に立ち、止めようとする。一方、千里は床にへたり込み震えていた。


「余計なお世話ですわ! コイツは私が仕留めます先生なんて呼ばなくて結構ですわ!」


「お前なぁ! 何考えてんのか知らねぇけどな! お前天才なんだろ!? 強いんだろ!? 人の事散々馬鹿にしてたけど一番馬鹿なのはお前だろ!」


「うるさいですわ! 私を天才って呼ぶんじゃない!!!」


その気迫に3人はたじろぐ。


「・・・行きますわよ剣! 相手は変わりましたが予定通り行いますわ! 強化魔術の後、けん制を行って下さいまし! わたくしは援護しながら力を溜め、全力の一撃をお見舞い致しますわ!」


「はっ!」


剣はドラゴンへと跳躍し切りかかる。戦龍型の鋭い爪や歯が襲いかかる。剣はそれを紙一重でかわしつつ切り込む・・・がドラゴンの硬い鱗に阻まれ、多少の切り傷程度しか与えられていない。時折剣が反応出来ない攻撃をキャロルが弾き軌道を逸らす。そのコンビネーションは完成しており、長い年月をかけて培われてきたものだと素人目にも分かった。


「すげぇ・・・これがドラゴンとの戦い・・・」


守はその戦いに見入ってしまった。


「剣!」


剣はその声に反応し咄嗟に身をかわす。

キャロルは2丁の銃を接続しそしてーーー放つ。轟音と閃光が走り辺りに衝撃波が巻き起こる。

ドラゴンは悲鳴を上げる。が・・・しかし流血はあるものの、致命傷を与えるには事は出来なかった。ドラゴンはその鋭い眼差しをキャロルに向ける。


「う・・・うそ・・・私の全力・・・全力だったのよ・・・」


キャロルは絶望しへたり込む。


「姫様ーーー!」


キャロルに一瞬気を取られた剣に、ドラゴンの爪が襲いかかり後方へと吹き飛ばす。

入り口付近の壁に激しく叩き付けられた剣は、気を失ってしまった。


「おい! お前大丈夫かよ!?」


大地は剣を抱え込む。どうやら息はあるようだ。

剣を一蹴したドラゴンは、キャロルに狙いを定める。


近づくドラゴンにキャロルは微動だにしない。


「あんのバカ!」


振りかざしたドラゴンの爪がキャロルに振り下ろされると、辺りに鮮血が激しく飛び散った。

千切れた腕が宙を舞い、べちゃっと鈍い音を立て床に力なく転がった。キャロルは正気に戻り、後方に吹き飛んだ守を見る。その胸には大きな穴が開き左腕は失われていた。千里と大地はあまりの事に声を失っている。


「何で・・・」


キャロルは走り出し守を抱きかかえる。


「何やってんのよバカ! さっさと逃げろって言ったでしょ・・・アンタが私を庇う理由なんて何1つありませんのに・・・!」


守は声も絶え絶えに言う。


「・・・お前を千里に謝らせるって約束した・・・お前が死んだら・・・出来ないだろ」


キャロルと千里は目を丸くしている。


「本当にバカの考える事はこれっぽっちも解りませんわ・・・」


突然千里がスッと立ち上がる。


「大地君・・・お願いがあるの。ドラゴンの注意を引き付けて欲しいの。キャロルさん大地君に強化魔術をお願いします」


「お・・・おう! ま・・・まかしとけ」


そういう大地は震えながら答え、剣の刀を手に取った。


「あんた・・・まさか!」


「あはは・・・皆さんへのシールドもお願いしますねキャロルさん」


千里はこそこそとドラゴンに近づく。


「おい! ドラゴン! こっちだ!」


ドラゴンに石を投げつけ、大地は震えながら刀を構える。

ドラゴンの猛攻をなんとかしのぎ時間を稼ぐ大地。だが素人の逃げ回りは長くは持たず、ついに捕まり弾き飛ばされる。


ドラゴンは残った最後のキャロルへと突進しようとするがそこでピタリと止まる。いや止まったのではなく動けないようだった。


「空間固定魔術。動けませんでしょう? 効果は数秒ですが十分なはずですわ」


ドラゴンの足元には千里。


千里は集中し魔力を高め始める、魔力が高まるにしたがって体の周りに熱が帯び始め、次第に千里を中心に空間全体が灼熱となった。


「あの子の魔力・・・底なしですの!? 試験の時の比じゃありませんわ!」


千里はキャロルの方を見つめ、優しく微笑む。


同時に空間が歪み激しい閃光と音ともに、大爆発が起き辺り一体を吹き飛ばす。

障壁はすべて消滅し学校のガラスは粉々に砕け散る。




爆炎と粉塵がひと段落し、徐々にキャロル達の姿が現れ始めた。

キャロルは膝をつき肩で息をしている。

守・剣・大地はキャロルのシールドに守られ無事のようだ。シールドにはヒビが入っており、爆発の凄まじさを物語っていた。


「魔力女は!?」


視線を前に向けると千里が倒れていた。全身の衣服は焦げ、ピクリともせず回りには肉の焦げた臭いが漂っている。

駆け寄ろうとするキャロルだったが、千里の後ろを見て絶望する。


「うそ・・・そんな! あの爆発で生きてますの!?」


そこには鱗は剥げ、血まみれになりながらもその目は死んでおらず倒れている千里を前足で弾き飛ばしキャロルへとゆっくり歩いて来る。


(もう魔力がーーー)


振りかざされる爪。キャロルは死を覚悟し目を瞑る。


と、突然生ぬるい液体がかかり、驚いたキャロルはゆっくりと目を開く・・・


そして、目に映った景色に驚愕する。

ドラゴンの首は無く、おびただしい量の血が噴出していた。

後ろを向くと、1回りも2回りも大きな、ドラゴンが佇んでいた。そのドラゴンの胸には大穴が開き片腕は失われていた。口にくわえたドラゴンの頭部からは大量の血が流れ落ちている。


ドラゴンは首を吐き捨て、漆黒の夜空に咆哮を行ったあと、ゆっくりと校舎を破壊しながら倒れ込んだ。


「・・・まさか・・・そ・・ん・・・な」


ドサッ。


キャロルも限界だったのか、その場に気絶し倒れ込むでしまった。




その様子を上空から見下ろす老人。


「とうとうこの時が来てしまったようじゃのう」


空中し設置されたシールドの上に白い髭の老人が立っている。


「おいジジィ! あいつ死んだんじゃねぇのか?」


後ろから妙に露出の高いナース服を着た女性が話しかけた。


「おいさき! 神代校長に向かって何て口の聞き方を・・・」


「あ? うるせぇんだよたけしてめぇは自分の筋肉とでもお話してろよ」


「全くお前はいつまでたっても・・・」


「あ? 何か文句あんのか? もう怪我しても治してやんねーぞ!」


「剛、もうよい。」


誠のひと言で2人はピタリと止まる。


「あの・・・神代校長・・・守・・・いえ弟はどうなるのですか。まさか・・・」


優香がおどおどしながら誠に質問する。


「安心しなさい。殺したりせんわい。おい咲や、みんなの治療を頼んだぞい。剛は校舎の修復を頼む」


「おいジジイ、あの龍の小僧・・・死んだろありゃ。いくら俺でも死んだ奴は無理だぞ?」


「彼は心臓とは別にコアをもっておる。あのくらいじゃ死なんわい」


「え? んじゃぁこのまま殺してコアもらっていいかジジィ!?」


「冗談でも言わないで下さい」


優香は鋭い目で睨みつける。


「ったくー冗談通じねぇな優香ちゃんは。 はいはい治しゃいいんだろ。龍の小僧の治癒は出来るが傷痕は残るぞ。あの焦げ女は普通の術者なら火傷の痕が残っちまうだろうが・・・。この俺様が完璧に治してやる。女に傷は残さねぇ主義だからな」


「本当は優しい子ですものね咲は」


「優しくねぇよ! 殺すぞ優香ちゃん!」


「仕返しですよ」


優しく微笑む優香。


「ほっほっほ、その位にして仕事にかかるのじゃ。おっ・・・もう剛はそろそろ校舎の修復を終えるぞ。剛は仕事が早いのー」


「あ! こら剛てめぇ、俺より先に仕事終わらすんじゃねぇぞ!」


そう言いながら咲は地上に飛び降りて行った。


空中に浮かぶシールドの上には2人が残った。


「ほっほっほ。しかし、正直あの子が生まれて来た時は驚いたものよのう」


誠は遠い目をして懐かしむように夜空を見る。


「京都大災厄の時クラス5のドラゴンを倒した後、体内から発見された卵から生まれたと聞いています」


「そうじゃ。貴重な資料として研究所に保管してあった卵が、30余年の時を得て突然羽化した時は驚いたわい。我々は当然ドラゴンの子供が生まれるものだとばかり思っておった・・・がしかし生まれたのは人の心臓とドラゴンのコアを合わせ持った人の子だったのじゃ。だが、ただの人の子という訳では無く、泣けばドラゴンになり火を吐き、あやせば人に戻る。当時の我々は対処に手をやいたものじゃ」


ほっほっほっと笑いながら誠は話を続ける。


「研究所で研究対象として飼育させる事も出来た。が・・・ワシは彼に、人の世で多くの事を学び多くの友人を作って成長して、あわよくば将来この国を守る戦士になってくれればと思い始めた。もちろん周囲は反対したが、お主の両親が引き取りたいと申し出てくれた事で、黒田の息子がお目付け役なら・・・と周囲を説得する事が出来たのじゃ。もちろん、もしも他人に危害を加えるような事があればその時は・・・実力者の一族に預けられたその意味はお主も十分理解しておるな?」


「はい。その時は私の手で・・・処理します・・・」


真剣な顔をしてそう言いつつも、優香は大粒の涙を流していた。


「お主は優しすぎるのう・・・」


「ずびばせん・・・」


涙と鼻水をスーツで拭いながら優香は泣き続けた。




一夜明け次の日の朝。守は自分のベッド目を覚ます。

昨日の夜の事を思い出し勢い良く飛び起き、服を脱ぎ鏡を見る。胸には大きな傷跡が残り、左腕は縫合した後がくっきりと残っていた。


「俺・・・そうか、又やっちまったのか」


階段を降り1階へと降りる。そこには優香が着替え中だったのか下着姿で立っていた。

その背中には大きな傷跡があり、それを見た守は複雑な表情をしている。


「さ・・・さっさと服着ろよ! 優香姉!」


「あ・・・おはよー守。 あ・・・ごめんなさい」


優香はそそくさとスーツへ着替えを済ませる。


「優香姉・・・俺、又ドラゴンに・・・」


そこまで言って守は皆の事を思い出す。


「皆は!? 皆はあの後どうなっ・・・」


「みなさん無事ですよ」


守は安堵したように胸を撫で下ろす。


「つーか何で優香姉が知ってんだよ」


「守の事が私に連絡入らないわけないでしょう。大丈夫、貴方はだれも傷つけてないわよ」


優香は守を抱きしめる。守はいつものように反抗せず、大人しく抱きしめられている。


「は・・・離せよ」


守は優香を引き離す。


「とりあえず今日は学校へ向かいなさい。そこで話があるはずです。では私は先に行ってるね」


守はそっぽを向いて顔を赤くしている。


「あと優香姉、何か袖・・・カピカピだぞ」


「わわわ! 洗うの忘れてた! でも、もう間に合わない!? いってきまーす!」


優香はバタバタと走り学校へと向かった。



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