図書室の相談録

ぐち/WereHouse

プロローグ

「ねぇアセアン君、答えを私に教えてくれない?」

「え、面倒くさいから嫌だ」


 とある学校の図書室の奥の端にある一角。うっすらと陰みたいな男子、アセアンは、図書室に毎日来る女子、明山 阿児(あくるやま あこ)の話し相手となっている。

 アセアンの名前はASEAN(東南アジア諸国連合)を取ったもので本名は憶えていない。そもそもアセアンは幽霊である。目付きが鋭い幽霊で、ホラーの怖いではなく脅しの方の怖いである。

 アセアンは記憶が無く、常識や学問は全て図書室の本で独学で覚えたものだった。

 アセアンの姿が見えるものは阿児以外はおらず、昼休みと放課後に決まって図書室にやってくる。

 阿児は眼鏡をかけ髪をゴムで纏めると清楚に見え、眼鏡を外し、ゴムを取り、ヘアピンだけにすると印象ががらっと変わる。今は清楚になっている。

 アセアンは溜息混じりに、


「お前さぁ、昼休憩って言ったら女子グループで集まって頭の悪い会話とかしたり、放課後とかは部活では、先生とかの悪口とか言ったりとかそういうことを話したりするんじゃないのか?」

「相変わらずアセアン君の偏見は止まらないね」

「俺の知識はこの図書室の本で出来ている。ここは一応教育現場なんだがな」

「最近の女子は裏があっていじめとかにしか脳を使わないからね。ほら、私みたいに賢い頭の使い方を知らない女子ばかりだから」

「はぁ、こいつはいらない一言を言うからいつもここにいるのだろうな」

「全科目オール百点満点をを一年間ずっと取り続けてきた天才美少女に間違いは無いわ」

「自信満々に言うのはいいが、でもそれは市内の進学校でもない高校では簡単だろうがバカ。せめてそうやって自慢にできるようになりたかったら県内にある高偏差値のエリート高校でやれ」

「……学歴社会なんて結局は建前でしかないんだよ」

「だろうな、今や高学歴ニートが数多く存在する時代なんだから」

「私はね、学歴社会じゃなくて実力社会の会社をつくりたいの」

「お、就職じゃなくて、会社を立ち上げるとは、思い切った事をするね」

「だって、したいことがあるならやってみるが私のモットーだから!」

「そうか……」

「ねぇ、アセアン君のモットーは何なの?」

「俺か?俺はもう死んでいるから貫きたい信念も無いよ」

「えーっ。だったらこれまでに読んだ本で心に残った名言とかはないの?」

「これまで読んだ本で心に残った名言か……無いけど」

「無いのね」

「でも、でも本を読んでいく中で矛盾しているこの世が面白かったね」

「アセアン君、中二病ぽいよ」

「やかましいわ!」


 なんてアホみたいな会話をしていると昼休みを終えるチャイムが鳴った。


「ほら学生、教室帰れ」

「ちゃんと阿児って呼んでよ」

「お前、ちゃんと自分が誰と喋っているのか理解しようか」


 図書室には数名の生徒が入ってきていて阿児の方を見てざわざわしていた。

 アセアンは幽霊だから、阿児みたいな特異体質の人以外からは見えないため、阿児が大きな声で独り言を言っているだけになっている。

 アセアンの知る限りこの学校では阿児以外はアセアンが見えないのだ。

 阿児が時計を見るなり、ヤバいと言って走って出て行った。阿児の次の授業は体育である。

 授業が始まり四十分は図書室で時間を潰して残り十分となった時、アセアンは壁を通り抜けある場所で待ち構える。数分後、体操服の女子が入ってきた。

 アセアンは堂々とニヤニヤしながら鑑賞していたのだが、不意のラリアットがアセアンを襲い、アセアンは気絶してしまう。

 アセアンをラリアットした女子は、この学校の生徒ではなくアセアンと同じ幽霊、学生認知度No,1であるトイレの花子さんである。

 アセアンを見て花子は、


「さいってい!!」


 と言ってアセアンの足を持ち、そのまま引きずってアセアンの居場所である図書室に投げ込まれた。花子は最後に


「私のだけを見つめてほしいのに」


 と呟き、校舎三階のトイレではなく、綺麗にされている一階の教師、お客様専用トイレに戻っていくのだった。

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