第21話:アンリミテッド・イグジスタンス(1)
駅横の自転車置き場の前、ガラの悪い男の横柄な声達が聞こえる。
「なぁ、そこのねーちゃんよぉ、ちょっといいかァ……?」
チンピラに突然絡まれた黒髪ロングの女子高生はビクッと反応する。
「な、なんですかあなた……わ、私急いでいるんで!」
そそくさと離れようとする女の腕を、チンピラが掴む。
「嫌!触らないで!!」
女の叫び声が響く。
「おいおい、そんな冷たい反応すんなよ。傷つくじゃねーかよ」
女の力は弱くチンピラの腕を振りほどけない。
「誰か!誰かぁ!」
女が恐怖で涙を流し始めた時、一つの人影が現れた。
銀色の髪に黒いコートを羽織った、端正な顔立ち男だ。彼はただ者ではない不穏なオーラをまとっていた。
「やめなよ。彼女嫌がってるみたいだしさ」
チンピラが振り向いて凄む。
「ああ?なんだァ、テメェは?」
男は肩をすくめる。
「そのうす汚い手を離せって言っているんだよ、チンピラ。女性の扱い方を知らない奴だな」
すかした態度の男にカチンと来たチンピラは、男をじろじろと睨み、声にドスをきかせる。
女を掴んでいた手を離す。女は転びそうになりながら男に頭を下げつつ、急いでその場を後にする。
「あぁ?テメェ何が言いたいんだ、俺に喧嘩売ってんのかコラ……」
「だったらどうだって言うんだい?この猿が」
チンピラが黒コートの男につかみかかろうとする。
その瞬間、男の掌に蒼い炎が渦巻いた。
その炎が突然、ボンッっと爆発起こし、蒼い光がほとばしる。
「うぐぉあっ!」
チンピラは爆発に巻き込まれ、吹き飛んでフェンスにぶつかり、動かなくなった。
「これが『ファントムブレイズ』だ。これからは身の程を知る事だな。チンピラが……」
黒コートの男がそう言い残し、その場を立ち去ろうとした時、突然キャンディーをくわえた女が現れて男にかけより声をかけた。
「あ!今の『ギフト』の技ッスよね!!」
「君は?」
黒コートの男がこれ見よがし掌から青い炎を出す。
それを見た女性……実兎は敵意を無いことを示すように、右掌を握手にと差し出す。
「ああ、やっと見つかった。依頼者の黒羽 刃さんッスよね。アタシは運営の実兎と言う者ッス!」
「ああ、君が運営の人か。待ち合わせに遅れて済まなかったね……」
黒コートの男、刃は実兎と握手をかわした。
彼はある不具合に悩まされ、運営が派遣したスタッフと待ち合わせていたのだが、そこで偶然チンピラに絡まれていた女性を助けたのだ。
依頼者の身元確認を済ますと、実兎は焼け焦げて倒れているチンピラに声をかける。
「先輩!起きてください!やっと刃さんを見つけたんスから話を聞くッスよ。つか何で倒れてんスか?」
チンピラ……もとい鬼城がプスプスと煙を上げながらゆっくりと体を起こす。
意識をもうろうとさせながら、ぶつぶつと喋り始めた。
「うぅ……いやな……依頼者が待ち合わせに来ねェから……場所間違えたかと思ってNPCに道聞こうとしてたらよ、こいつががいきなりチンピラとか言って突っかかってきてよォ……」
「はいはい。どーせ、先輩が悪いんでしょ!行くッスよ!」
実兎は自分から訪ねた癖に、鬼城の話をまるで聞くつもりは無かった。そして手招きしながら、近くの喫茶店に入っていく。
鬼城はパンパンと埃を払いながら立ち上がる。刃は面食らった顔で起き上がった鬼城を見る。
「え、君、運営の人だったの……?てっきりよくいるチンピラNPCかと……」
「チンピラって言うな……」
鬼城は確かにNPC相手だとしても自分の態度が悪かったかもと反省しながら、刃に無愛想に言葉を返した。
今回鬼城と実兎が訪れたワールドは『アンリミテッド・イグジスタンス』。
架空の都市『光ヶ浜』に住みながら、そこで起こる異界の怪物『デーモン』による様々な事件を、特殊な能力『ギフト』を使って浄化……即ち『ピュリフィケーション』するワールドである。
『ギフト』はデーモンの中の裏切り者、『アンチデーモン』が魂にとりつく事で手に入れる事ができる異能力で、能力を手にいれた者は『ギフターズ』と呼ばれている。
デーモンは人の魂のエネルギー『Pソウル』を食らう。だから何も知らない人々、通称『ナチュラル』をデーモンの魔の手から守るため、ギフターズは日常に潜むデーモン達を倒していかなければならない。
だがデーモンも一筋縄ではやられない。デーモンも人の魂にとりつき、パワーを与えた悪のギフターズとなった人間……『デッドハンド』を使役するのである。
プレイヤーは光ヶ浜にあるギフターズの組織、『アンリミテッド』に属し、デーモンの持つエネルギー粒子『グラッド』を集めデーモンを阻む結界『バリア・サンクチュアリ』を形成して対抗するのだ。
まとめると、アンチデーモンを身に宿し、アンリミテッドのギフターズエージェントとなって、デーモンやデッドハンドをピュリフィケーションしてグラッドを集め、バリア・サンクチュアリを作り、ナチュラルのPソウルを守るのだ。
……もっと簡単にまとめると、手に入れた異能力で、怪物や異能力を持った悪人を倒して街を守る、現代風RPGである。
依頼者の刃はこのゲームを、オフラインモードで遊んでいた。
オンラインのこのゲームは、正義側についたり悪側についたり、チームを組んで戦ったりとするゲームだが、オフラインモードだと様相はがらりと変わる。
敵も味方もNPCしかいないのだ。味方のギフトは自分より弱いものばかりだし、敵とまともに戦えるのは自分しかいなくなる。
つまり、自分の選択次第で、英雄になるのも世界を破滅に導くも自由に選べるのである。
いわゆる、『世界の主人公』になれるのである。
世界で唯一無二の特別な人間になれて、誰もが尊敬し、異常にモテる。自らを中心に世界が動く、最高のワールドだ。
NPCも本物の人間と比べてあまり遜色無い。強いて言えば、何をしてもプレイヤーが罪悪感を感じないよう記憶や生死をリセットできる様になっている。
「で、刃さんがアタシ達を呼んだ理由は、別のプレイヤーがこの世界に入ってきている……って不具合についてッスよね」
喫茶店の席につくなり、実兎が切り出した。
「ああそうなんだ。そいつを探して追い出して欲しいんだ。俺がピュリフィケーションしていないのに、キングデッドハンドの数が減り、グラッドが溜まってバリア・サンクチュアリが完成に近づいてるのが証拠だ」
「わりィ、専門用語無しで言ってくれ……」
タバコを蒸かしながらちんぷんかんぷんといった雰囲気の鬼城に、刃は「この人本当に運営か?」と懐疑の目を向けながら言い直す。
「だから、俺が倒してないのにボスキャラの数が減って、敵を倒した時の累計ポイントが増えているのが証拠だ」
「ちなみにッスけど、累計ポイントはNPC同士の戦闘じゃ増減しないッス。だから何らかの不具合があるのは間違いないッスね」
実兎が得意気に補足する。実兎は腐っても運営だ。管轄のワールドに関してはざっくりとだが知識を有している。鬼城はそうではないが。
「そうか……なぁ刃さんよ、なんか手がかりあるか?それとも俺ら二人に着いて一緒に探すか?」
鬼城の問いに刃は首を大きく横に振る。
「着いて行くなんてとんでもない!俺は人と関わりたくなくてオフラインでゲームを楽しんでいるんだ。そっちで対処してくれ」
当然の反応だ。何が楽しくてゲームのデバッグを手伝わなければいけないのか。
刃は人と関わる面倒事はもうごめんだった。生前、営業職で人と関わりすぎて軽い人間不振になっていた為だ。今は気ままにのんびりと世界の救世主がしたいだけなのだ。
「あ、でも、手がかりならある。えっと、地図データ送るよ。それは今のキングデッドハンド……ボスキャラ達のいる場所が示された地図だ。侵入者は強キャラ狩りをしてるみたいだからそこに現れるかも。できればそいつらを守ってほしい位だよ」
救世主の言葉とは思えないが、確かに自分の進めているゲームに勝手に入られてボスを倒されちゃ堪ったものではない。鬼城にもようやく事のムカつき具合が分かってきた。
「分かったッス。じゃあ先輩とアタシで対処するんで……アタシ達しばらくこの街にいても大丈夫ッスかね」
「ああ、いいよ。その代わり絶対侵入者を追い出してくれ」
鬼城と実兎は頷いた。……と同時に実兎が頼んでいたメロンクリームソーダとパンケーキが届いた。
上機嫌に食べ始めた実兎を、鬼城は冷ややかな目で見ながら刃に約束する。
「すぐに解決してやる。約束するぜ。んでそいつを追い出したら、運営の方からボス復活をさせとくわ。ま、アンタは普通にこの世界を楽しんでいてくれ」
「ああ、頼んだよ。じゃあ俺はこれで。……今、サブヒロイン攻略中で忙しくてね!」
そう言って刃はそそくさと喫茶店を後にした。
刃が出て行ったのを確認すると、鬼城は右手を大きく挙げた。
「すいませーん、俺にもパンケーキとコーヒー下さい」
とりあえず鬼城は、実兎が美味しそうに食べているパンケーキを食べてから行動を開始することにした。
◆◆◆
「で、先輩、どうします。早速ボスキャラ……キングデッドハンドの所行くッスか?」
パンケーキを食べ終えた鬼城と実兎は作戦会議を始めた。
「どうすっかなー。あいつ俺の事いきなり焼いて吹っ飛ばして来たしなァ、しばらく放っておいてもいいんじゃねェか?2、3日サボろうぜ」
「えーー。あんな約束しといて先輩それは陰湿ッスよ。ダサいッス。見損なったッス。ホント見下げたカス野郎ッスね」
「……もうちょっと悪口に手心というモノをだな……」
実兎がクリームソーダを飲みながら、人差し指をピンと立てて提案をする。
「サボるなら仕事終わらせてから、まだ未解決って事にして2、3日サボりましょうよ。そうした方が怒られないッスよ」
「お前も大概じゃねェか……。じゃあキングなんとかって所に行って侵入者を待ち伏せするか。……そういや侵入者って強いのか?」
実兎が何かを閃いたかのように急に机に身を乗り出す。
鬼城の「侵入者は強いか?」の質問に、この世界の戦い方を思い出したのだ。
「あ!そうだ先輩!アタシらもギフト手にいれましょうよ!異能力パワー無いと侵入者にやられるかもッスからね!」
鬼城は話の切り替えも変わり身も早い実兎の勢いに押されつつ、魅力的な提案に乗る。
「あー。そりゃ楽しそうだな。依頼者の蒼い炎カッコよかったしなァ。で、どうやりゃいいんだ?キャラメイクするのか?」
実兎はルールブックを取り出して読み始める。
「いや、能力はランダムみたいッスね。なんか自分に合った能力になるみたいッス。あ、インスタントでギフト手に入れる事もできるッスよこれ!……えーと目を閉じてアンチデーモンに命を捧げる契約を結ぶと願えばいいみたいッスね」
「ほー。じゃあ早速やってみるか」
鬼城と実兎は目を閉じる。
そして心の中でアンチデーモンとやらに祈り始めた。そして命を捧げると念じる。
瞬間、二人の体の中に、得体の知れない幽霊のような冷たい物がするりと入り込んだ。
二人は目をカッと開き、ガタッと席を立ち上がる。
「あ!なんか俺!赤い雷で全てを焼き切る銃弾を放つ銃を作り出す能力、『赫雷の
「アタシも乗った乗り物に冥界の魔力を注ぎ込む事で、闇のエネルギーを纏わせる能力『幽冥の
鬼城はコーヒーをぐいっと飲み干すと、カシャンと勢いよくカップを置いた。
「こうしちゃいられねぇ!早速、キングなんとかって所に行くぜオイ!そんで試してみようぜこのギフト!」
「了解ッス!早速向かうッスよ!!」
実兎がクリームソーダを飲み干すと同時に、足早に二人は喫茶店を飛び出した。
早速二人にとって、仕事の事など二の次になっていた。
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