第10話 復帰
「な、なんだ苦しい!」俺は体の上に感じる重圧感により目を覚ます。体の自由が利かない。
「ああ・・・・・・・」耳元に吐息を感じた。よく見ると俺の体の上に直美が覆い被さっている。
「ちょ、ちょっと直美・・・・・・・あれ?」声が野太い声に戻っている。 自分の顔に触れてみる。 昨日までとは違う、硬い男の皮膚であった。「元に戻っている!」股の辺りに手をやると俺の相棒がその場にいた。「お帰り・・・・・・・」思わず呟いてしまった。
「んん・・・・・・・」直美が目を覚ました様子だ。 少し体を起こした事により、直美の大きな二つの物体が俺の目の前に出現した。俺の顔は真っ赤に染まる。
「な、直美・・・・・・」俺は彼女の名前を呼んだ。
「ふあーん! あっ、幸太郎君・・・・・・・おはよう・・・・・・って?!」直美は跳ね上がるように起きた。「な、なに、男の姿に戻ったの・・・・・・・私に何もしてないでしょうね?!」直美は胸の辺りを覆いながらガードしていた。
「あのなぁ! 布団に入ってきたのはお前だろうが、・・・・・・・・それに俺がお前に変な事をする訳ないだろう!」
「・・・・・・する訳ないって・・・・・・馬鹿!」直美が俺の顔面に足刀蹴りをお見舞いした。そのまま俺は布団に倒れこんだ。 キーちゃんが俺の頬をぺろぺろ舐めてくれた。
「おはようございます」俺はリビングに欠伸をしながら移動した。
「おはよう・・・・・・あれ、幸太郎君? いつの間に帰ってきたの」叔母さんが驚きの表情を見せた。
「あっ、昨日の夜遅くに、皆を起こすと悪いから黙って部屋に戻りました」少し無理っぽいかと思ったがこの説明で通すことにした。
すでに詩織さんと愛美ちゃんは席に座っている。 叔父さんはとうに仕事に出かけたようだ。
「おはよう」直美が姿を見せた。
「おはよう・・・・・・あれ、コウちゃんは?」叔母さんは直美の後ろに目をやった。その背後には誰も居ない。
「あ、ああ彼女は、さすがに宿泊は無理だって帰ったわ」直美も同じような言い訳をした。
「そうなの、残念ね・・・・・・・幸太郎君も朝食食べる?」叔母さんは思い出したように質問してきた。
「あ、いただきます」
「ちょうど、入れ替わりだから人数分の食事はあるわ。どうぞ」叔母さんは俺の為に朝食を机に運んでくれた。
「有難う」叔母さんに礼を言う。 叔母さんは笑顔で返答してくれた。
「あああ、お姉ちゃんのほうが綺麗で良かったのになぁ・・・・・・・」愛美ちゃんが残念そうに呟いた。
「どういう意味だよ」
「お友達が帰ってきて良かったね、お兄ちゃん!」愛美ちゃんが俺の股間の辺りを見ていた。
「愛美ちゃん! な、なにを言っているんだ?!」俺は自然と彼女の正面から体を横に向けた。
「愛美は少し言葉を選びなさい」詩織さんは食事を終えて、紅茶を優雅に飲んでいた。言葉を選んだところでその突っ込みは駄目であろう。
「はーい。わかりました! 詩織お姉さま」愛美ちゃんは詩織さんの言うことはいつも素直に聞く。詩織さんのことがよほど怖いのか。
「早く食事を済ませて、休みだからってゴロゴロしていては駄目よ」叔母さんが時計を見ながら即した。今日は日曜日、男の姿で一日のんびり出来ると思うとホッとした。
叔母さんには見えないようだが、キーちゃんは俺の肩の上に乗っている。
キーちゃんの頭を撫でてやると、彼は気持ち良さそうに目を細めた。
「ねえ、幸太郎君、今日はどうするの、何か用事ある?」詩織さんが珍しく俺の都合を確認してきた。
「いいえ、特に今日は予定はありませんが・・・・・・・」
「たまには、私とデートしない?」
「「えっ!」」なぜか直美とシンクロしてしまった。
「私じゃ役不足かしら?」詩織さんは紅茶の入ったティーカップに唇を接触させた。
「い、いいえとんでもない!」俺は激しく頭を振った。
「愛美も一緒に行く!」愛美ちゃんがはしゃいだ声を上げている。
「わ、私も・・・・・・・」直美が呟く。
「駄目よ、私と幸太郎君のデートなんだから、あなた達は来ては駄目よ」
「えー、なんで、なんで?! 私も行きたい! 行きたい!」
「駄目よ」詩織さんは諭すように愛美ちゃんに言った。
「はーい・・・・・・・」愛美ちゃんは渋々納得したようであった。
直美も少し不満げであった。
俺の意見は全く無視のようであった。
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