第7話 天使
「どういう事なんだ? こんな話聞いていないぞ」俺はモンゴリーを睨みつけた。
「私は、お前達に力を譲渡する時に戦ってもらうと言ったはずだ」モンゴリーは平然とした声で呟いた。
俺達は魔王の前から解放されて、夕方の教室に帰っていた。結構な時間が経っていたような気がしていたが時計は一時間も動いていなかった。
「私がサポートするから大丈夫よ」エリザは既に神戸の姿に戻っている。
「敵は何者なの?」直美が口を開く。確かに相手が誰なのか解らないまま戦うのは心もとない。
「さっき、魔王の近くに背中に羽を生やした女がいたでしょう」神戸が呟く。 聞きながら俺は美しい女性の姿を思い出していた。 白い薄手の衣装で大きな胸元が見えそうで見えない。美しいブロンドの髪に大きな目と高い鼻、そして形の良い唇。
「痛って!」ケツに思いっきり直美の下段回し蹴りが入った。「な、なにするんだよ!」俺は苦痛に顔を歪めながら聞いた。
「なんだか、ムカついたのよ!」直美は吐き捨てるように言った。
「あの、女は敵方の使者なの・・・・・・・あの、姿を見れば何者かは大体察しがつくでしょう」神戸は机の上に座りながら言った。
「やはり、天使なの?」詩織さんが落ち着いた口調であった。
「そう、この世界の創造主の神は、人間に失望してこの世界を造り直そうと考えておられるのよ。でも、私達にすれば人間達もまだまだ捨てたものでもないと思うのよ。それで、最高魔女のモンゴリーが人間界を守る為に立ち上がったのよ」神戸の説明を聞きながら、モンゴリーは少し偉そうに胸を張っている。
「でも、失敗してその姿に封印されたようね」神戸は少し呆れ顔で言い放った。その言葉を聞いてモンゴリーがガクリと肩を落とした。
「でも、どうしてモンちゃんの事を隠しておくの?」愛美ちゃんが会話に加わってきた。
「モンゴリーは大昔から、あなた達人間を守り続けてきたのよ。魔界でも、モンゴリーの力を恐れて自粛している魔物が沢山いるの。もし、モンゴリーが居なくなった事に気づかれたら、人間界には数々の災いが降りかかるかも知れない」神戸が返答する。
神戸の話によると、昔から人間界は魔物の脅威に晒されていて何度と無く破滅しそうな危機に襲われてきたそうである。
今までは、魔界と天界の協定により魔女達が人間界を救ってきたそうである。その魔女達を束ねていたのがモンゴリーで、彼女の存在が魔物達の脅威になっていたらしい。
そのモンゴリーが居なくなったと判れば、際限なく災いが訪れるであろうと彼女は言っていた。
更に、人間界が堕落した事に失望した神々が人間を消し新しく歴史を書き直すことを決めたということ。長い間、人間達を守ってきた魔女達はこれに反発して、戦いが勃発した。
今は一時休戦中ということだ。 天上界でモンゴリーの存在は脅威になっており、彼女の力が消失しては力の均衡が崩れて、一気に人間界と魔界は滅ぼされてしまうかもしれない。
その危機を回避することが出来るのが、俺達の存在だということであった。
正直、その話を聞いた時、事前にこの事をモンゴリーが教えてくれていたら、こんな力は受理していなかったであろう。 俺はモンゴリーの顔を少し恨めしく見つめた。
彼女は気にも止めない様子であった。大きな欠伸をしている。
「これから私達はどうすれば良くて?」詩織さんは落ち着いた口調で聞く。
「先ほども言ったけれど、私があなた達をまとめるわ。これからは私の指示通りに動いてもらうわ。 今は、とりあえず・・・・・・・普通の学生として生活してもらって問題は無いわ」神戸は長い黒髪を掻き揚げた。
神戸は俺達に何もする必要が無いと言った。 なにかあれば・・・・・・・なるようになるとの事。 無責任な話だ。
「ところで、コウ君・・・・・・何時までその姿でいるの?」直美が俺の顔を見て訝しそうな目を見せた。
周りを見ると直美達は皆、普段の制服姿に戻っていた。
「あ、あれ?」俺は男の姿に戻れと念じる・・・・・・が変化しない。 指輪を触りながら「戻れ! 戻れ!」と声に出すがやはり駄目であった。
「どうやら、魔界に行った事で魔力が強くなって元の姿に戻れなくなったようだな」モンゴリーが久しぶりに口を開いた。
「な、なにー?!」驚きのあまり俺は奇声を発してしまった。
「わーい、幸太郎お兄ちゃんが、お姉ちゃんになった! やっぱり・・・・・・・無くなったら寂しい?」愛美ちゃんが意味不明の事を言っている。
「いいじゃない、貴方可愛いからきっと男の子にもてるわよ」神戸が面白そうに微笑んでいる。
「ううん、確かに・・・・・・」直美が顎に手を当て、マジマジと俺の顔を見ている。
「なっ、なにを言っているんだ! お前は?!」俺の金髪が翻る。
「心配しなくても、一晩もすれば元に戻ると思うわ。丁度、今日は金曜日だから明日、明後日は休みだし良かったじゃない」神戸が愉快そうに微笑む。 この状況を面白がっているようである。
「俺はこの週末どうすればいいんだよ!」
「大丈夫よ、海外からの留学生が週末だけ泊まりに来たと母さんに言えば平気よ」詩織さんは腕を組みながら言った。
「わーい! お泊りだ! お泊りだ! コウお姉ちゃんとお泊りだ!」愛美ちゃんが訳の判らないことを言いながらはしゃいでいる。時々この娘は意味不明の事を口走る。
「でも。叔母さんが、それに俺が帰らないと不審に思うんじゃないのか?」
「大丈夫よ。母さんはあまり考えない人だから、幸太郎君は友達に家に泊まることにすればいいんじゃない」直美もなんだかお祭り事のように嬉しそうに意見を述べた。
「そんな、いくら叔母さんでも・・・・・・・そんなに単純ではないだろう」
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