第3話 継承

 モンゴリーを助けたあの日から数日が経過した。あいも変わらず空は鬱々とした雲行きである。


「幸太郎」聞いた事の無い声がした。


「へっ?」俺は突然名前を呼ばれて驚いた。声の方向を見るとあの黒猫が座っていた。

 詩織さん達の顔を見たが、呼んだのは自分では無いと皆首を振った。座っていた黒猫は突然話し始めた。


「私はモンゴリー。 傷ついた体を癒してくれたあなた達に感謝するわ」モンゴリーは流暢りゅうちょうな言葉を発した。


「な、なんだ?!」俺は驚きのあまり尻もちをついてしまった。


「モンちゃん喋れるんだ、すごい!」愛美ちゃんが能天気に喜んでいる。すぐに受け入れられることがすごい。


「幸太郎君の悪戯なのでしょう。 悪ふざけはやめなさい」詩織さんは、どうやら俺の仕業と思っているようだ。


「俺は何もしていないよ。 こいつ・・・・・・」


「やっぱり、あなたは普通の猫じゃないのね?」直美が俺の言葉を補足した。


「そう、私は猫ではない。この体は仮のものだ」

 一瞬にして部屋の中の空気が変わった。


「いっ、一体どういうことなの?!」詩織さんの表情が引きつる。 近くにあった孫の手を手に握りしめていた。


「あなた達のお蔭で、私の体は回復した。ありがとう。・・・・・・ただ、この体には呪いがかけられていて本当の姿に戻ることが出来ないのだ」後ろ足でモンゴリーは頭をかいた。


「呪いって、なんなのだ?」俺は質問をした。


「この姿自体が呪いなのだ。 私は猫の姿に変えられて魔法を使えなくされたのだ」


「あほう?」愛美ちゃんが聞き違えしたようだ。


「違うわよ。魔法よ、ということは、モンゴリーは魔法使いって事?」詩織さんが少し落ち着いた口調で聞いた。


「そうよ、私は魔界王家に仕える魔法使い。ある事情により呪いをかけられて、この始末よ」猫がため息をつくところを始めて見た。


モンゴリーは座布団の上を飛び降りると、俺の膝の上に飛び込んできた。


「どうしたんだ?」


「折り入って、あなた達にお願いがあるの。聞いてはもらえない?」改まって、モンゴリーが言葉を切り出した。


「なになに、モンちゃんのお願いって何?」愛美ちゃんが嬉しそうに聞く。


「愛美黙って! 内容によるわ。危険な事ではないでしょうね?」詩織さんが落ち着いた口調で言った。


「私の使えなくなった力をあなた達が継承してくれない? そして、私の代わりに戦って欲しいの」モンゴリーの目が鋭く光る。


「戦うって、そんなこと俺達にできるはずが無いよ」戦いという言葉を聞いて俺は少し緊張した。


「幸太郎、あの日あなたは私の鳴き声が聞こえた。あの声は敵の見つからぬように私の仲間の魔女にだけ聞こえるように、私は声を発していた・・・・・・・、なのに幸太郎には私の声が聞こえたのよ」モンゴリーはいいながら自分の前足を舐めていた。その仕草は完全に猫のものであった。

 俺はモンゴリーの発した言葉の意味がよく判らなかった。


「それは何、幸太郎君には特別な力でもあるということ?」詩織さんはモンゴリーの真意を感じ取っているようだ。


「そうよ。幸太郎には私達に通じる何かがあるように思う。 それはこの数日の生活で確信に近いものに変わったの。 そして、一緒に暮らすあなた達にも多少の影響を与えているようなの」モンゴリーは姿勢を正して告げた。


「ねえねえ、なんなの?」愛美ちゃんが話しに加わろうと言葉を発する。


「愛美、今は駄目。 あとで説明してあげるから」直美が愛美ちゃんの口を塞いだ。 愛美ちゃんはフガフガもがいている。この娘が中学生とは今も信じられない。


「私達に継承するって言ったわね。 私達が魔法を使えるようになると言う事? 少し面白そうね」詩織さんが少し微笑みながら呟く。


「お、お姉ちゃん、大丈夫なの?」直美は心配そうな表情で詩織さんを見つめた。


「大丈夫よ。 逆に感謝して欲しいくらいなのにね」モンゴリーは笑っているように思えた。そう告げると、モンゴリーの体が急に輝きだした。その光が広がり、俺達の体を包み始めた。


「な、なに!」詩織さんの服が弾け飛び体を白い花びらが包みこむ。

彼女の髪が銀色に染まり美しい少女の姿に変身した。


「きゅあー!」愛美ちゃん、直美の服も同じように飛び散る。 二人は一糸纏わぬ姿になった。 俺はその姿を見ないように両手で目を覆った。 体に違和感を感じて、自分の体を見ると彼女達と同じように俺の服も飛び散っていた。

 光が収まると俺の目の前に、見た事の無い美しい三人の少女が立っている。


 青を基調とした白いスーツを着たシオリさんらしきが美女の姿。大きなメロンのような胸、くびれた腰、引き締まった下半身。 彼女のそのスタイルは高校生とは思えない。短いスカートの下から美しい二本の足がスラリと伸びている。その形が更に美しい。

 シオリさんの隣にイツミちゃんと、ナオミと思われる二人がいた。

 イツミちゃんは小さな体に、シオリさんに似たスーツを着ている。 それは黄色を基調にしたものであった。 幼さの残った体が可愛らしい。 ただ胸の脹らみは立派なものであった。手にはバトンのような物を握っている。 彼女はまるで魔法少女のようであった。

 ナオミは、ピンク色のスーツを纏っている。髪の色も同様のピンクに染まり腰まで長く伸びていた。

彼女達の手の甲には、ドライバーグローブのような指ぬきの手袋を装着されている。

 変身した彼女達の姿は美しいモデルのようであった。 その姿を見てもだれも彼女達とは気がつかないであろう。


「みんな、すごく綺麗だ」俺は変身した彼女達の姿に少し見とれていた。


「あれ、幸太郎お兄ちゃんは何処にいったの?」イツミちゃんが部屋の中を見回す。つられてシオリさんとナオミも辺りを見回した。


「えっ、俺はここにいるけど」目の前にいる俺の姿に気が付かないようなので手を上げてアピールしてみた。


「ふぇ、まさかあなたが・・・・・・幸太郎君なの?」ナオミは、俺のほうを見て顔を引きつらせている。ナオミのその言葉を聞いて、俺は自分の体に視線をおとす。


 明らかにいつもとは違う光景に困惑した。

 何故か胸の辺りが少しふっくらとしていて俺の視線を邪魔する。


「あ、あれ?」なにか、大切なものが失われたような気になり股のあたりに手をやる。その事実に俺は呆然とした。


「な、ない?!」生まれてから連れ添ってきた相棒の姿が消えている。

今度は胸の辺りを触れる。そこには今まで体験したことのないような手触りを感じた。 それは膨らんだ柔らかい二つの物体であった。


「本当にコウ君なの? すごく・・・・・・可愛くてよ」シオリさんが、少し微笑みながら感想を述べた。

 俺の服装もシオリさん達とよく似た白いスーツに変わっている。下半身は今まで履いたことの無い短いスカートを装着している。


「な、なんなんだ! これは?!」俺の体は明らかに、女の体に変わっている。長いブロンドの髪、あきらかに肌の色が白くなっている。どこを触っても体が柔らかい。


「モンゴリー! どういうことなんだよ、これは!」


「魔女は女と相場が決まっているわ。 それに、・・・・・・・貴方はその姿が、とてもよく似合っているわよ」グレゴリーは前足を舐めながら笑んでいるようであった。

 変身した四人の能力はそれぞれ異なっているそうである。

 シオリさんは、自然界の物質を自由に操る能力を持っているそうだ。 天候を変えることもできる。但し、その能力を使用したあとの疲労は半端でないらしい。


 イツミちゃんは瞬間移動と人の心を読み操る能力。


 ナオミの力は、観念動力。俗にいうサイコキネシスというあれである。 少々重いものでも、彼女は物体を移動させることができる。


 そして俺の力は、物質爆破能力。

生き物を除いて触れたものを何でも爆弾のように爆発させることが可能だ。ただ、大変物騒な力なので使用する機会はほとんど無いであろう。


俺はもう一度自分の体を見直して、大きな溜息をついた。

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