不幸な笑顔⑩




今春人たちがいる場所は、特に目印もない平凡な場所。 迎えに来れるのは、小倖が自分の居場所を相手に送ったからだそうだ。


「ねぇねぇ! 小倖さんの好きな人って、どんな人?」


小倖は相変わらず、少し離れた場所にいる。 あまり親密にしているところを見られたくないとのことだが、春人は少し寂しい気持ちを感じていた。


「とてもカッコ良くて素敵な人。 思いやりがあって、ずっと私のことを大事にしてくれるの」

「でも、付き合ってはいないんだよね?」

「うん」

「ずっと大事にしてくれるって、出会ってから長いの?」


夕樹自身、深い意味を持っての質問ではなかったのだろう。 だが小倖から返ってきたのは、驚くべき言葉だった。


「生まれた時からずっと一緒だよ」


そこから連想できるのは家族だった。 だが、家族とは考えられない。 聖も同じように考えたらしい。


「生まれた時から一緒って、どういうことだ? 幼馴染とか?」

「ううん」

「じゃあ、どういう関係?」


「お兄様だけど?」


「「「・・・」」」


小倖は顔を赤らめながら、ハッキリとそう言った。 人は驚くと、言葉を失うというのは本当らしい。 三人はノーリアクションで、石膏像のように固まってしまった。

最初に硬直が解けた夕樹が、恐る恐る尋ねかける。


「好きっていうのは、LIKEっていうこと・・・じゃないよね? LOVE?」

「もちろん、そうだけど」

「ど、どういうところが好きなの?」


小倖は胸の前で手を組むと、うっとりした表情を浮かべて話を続けた。


「全てよ。 撫でてくれる手も、褒めてくれる声も、汗と共に溢れる香りも。 目も鼻も口も髪の毛も、爪の先まで全て愛しているわ」

「「「・・・」」」


三人は小倖のあまりのブラコンさに、再度固まった。 ハッキリいって異常なのだ。


「小倖さんを笑わせたら悪いことが起こるっていう噂、嘘だったのか・・・」

「あ、それね。 私がその噂を流したの」

「え、自ら?」

「うん。 私、お兄様以外の人には興味がないから。 だから誰とも関わらないように、話しかけられないように、わざと悪い噂を流したの」


聖は返ってきた言葉に、脱力したのを隠せなかった。 誰も関わってこないようにと流した噂に反して、自分たちは関りにいってしまったのだと。


「じゃあ、今度は俺が質問! さっき、占いの館へ行っていたよね? その理由は?」

「・・・やっぱり後を付けていたのね」

「あー、あはは。 ごめん・・・」

「まぁ、いいけど」

「占いをしに行ったんだから、お兄さんとのことでも占ってもらったんじゃないのか?」

「あー、そっか。 ちなみに結果は・・・?」


聖の言葉は正しかったようだが、夕樹の疑問を聞くと小倖の顔が見る見るうちに変化していく。 まるで、般若のようだ。


「ふざけんなッ、ふざけんなッ! 私の意中の相手には、既に相手がいるですって・・・! 兄妹なんて、最初から上手くいくはずがないですって。

 お金を取っておいて、そんな適当なことを言うだなんて許せない!」


「「「・・・」」」


怖かった、凄く怖かった。 このブラコン具合は、本気の本気であると確信した瞬間だった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る