012 グレイ、威圧感

へ?今、兄さんは何を言ったでしょうかね?ウィンドウ?え?


「なんて?」


「いま、リベルの手の先にウィンドウあるよね?」


「え、うん。これが見せられれば楽だったんだけどなぁって思ってたとこ」


「ウィンドウって光る板みたいな感じのやつなんだよね?」


「あれ、言ってたっけ?そうそう、そんな感じで僕のステータスが書かれてるんだ。だからステータスウィンドウの方が正しいのかな?」


「――おい、ちょっと待て」


突然ロイドさんが声をあげた。違うからね?断じて兄さんはこんなに口悪くないから。


「…そのなんか、浮いてるやつはなんだ」


ロイドさんは僕のウィンドウを指さしている。


「この辺にあるのだと、まあ、ステータスウィンドウですけど?なんなんですか?」


「いや、そこに浮いてるから言ってるんだが?」


「や、ここ以外にどこに置けばいいか分かんないですよ?遠かったら文字見えないし、近かったら僕の視界遮られるし」


「距離のことはどうでもいいんだが?」


「じゃあ何ですか?僕のウィンドウがここに無かったらいいんですかね?ねぇ?」


「別にそんなこたぁ言ってねえだろうがよ!お前のだから言ってんだ!」



「ちょっと。」



兄さんの声が部屋に響いた。


「ねえ、リベル、落ち着こう?ね?先生も」


「…うん」


「…ああ」


何故か熱くなってしまった。別に怒る程の事でもなかったんだけど…僕のスキルの事言われたからかな?なんにしろ兄さんには感謝だね。


それに兄さんのあんな声は始めて聞いた気がする。妙に威圧感、というのかな?そんな感じの声だった。


「ん。リベル、さっきから先生も言ってるんだけど…ボクらもリベルのステータスウィンドウ、みえてるんだ、と思う」


え?どゆこと?さっき見せた時はみえないって言ってたじゃん。


「え、と。じゃあこれ読めてるってこと?」


「うん。ところどころ、良く分からないとこもあるけどね」


「…俺もさっきっから言ってたんだが?」


「先生…?」


兄さんがロイドさんに笑みを向ける。なんか、僕は今日の兄さんが怖いよ…


「えっと、本当にこれみえてるんだよね?だったら、ちょっと試しても良い?」


「うん、良いよ。何するの?」


「この『MP』ってところが僕の魔力の数値なんだけど、分かるかな?」


「ああ、20/20ってなってるとこだよな、みえるぜ」


「よし。ロイドさん、今から魔力を3だけ使うから減ったとこ分かったら言ってね」


「おう、3減ったら言えば良いんだな?」


「そうです。それじゃあ…【Licht光よ】」


朝覚えた短縮呪文で光の魔法を使う。本当にみえてたら分かるはずだ。


「…おい、いつになったら使んだよ。馬鹿にしてんのか?」


「や、別に馬鹿にしてる訳じゃないですからね?本当にみえてるのか試しておきたかっただけなんで。ちゃんと1だけ減ってるのが分かってるなら良いんです」


「ふふ、大丈夫だよリベル。先生もちゃんと分かってるから。ね?先生?」


「お、おう。そうだな…?分かってたぞ?」


あれは嘘だろ。っていうか兄さんが…なんであんな事に


「え、ええ。分かってるなら僕としては問題ないです。あー、そうだ。これってみえてる?」


僕は久しく使っていなかった録音のウィンドウを表示させる。手動録音とか最近全然やってないな。思っただけで操作できるのは『何動』なんだろうか?


「…うん、みえるよ。丸いのとか四角いのとか。あと、『遠隔』『座標』とか書いてあるよね?あってるかい?」




……おっと。なんか知らん間にまた増えてるよ。

何だよ『遠隔』って。盗聴か?僕に盗聴でもしろってのか?……考えておこう。


それにしてもいつ増えたのやら。

まあ多分、録音の熟練度が3になってたからそれなんだろうけど。

もしかしてだけど、他に増えてたスキル調整とかも何かあるのかな?

…あ。まさかウィンドウの『可視化』ってスキル調整のせいか?

前はスキル調整が増えた後に『メモ』が増えたから、可能性としては無くはないか。

調整の自由度高くない?派生元の『ステータス』が凄いのか、『スキル調整』の方がおかしいのか…僕的には正直もっと派手なやつの方が良かったなぁ。



「リベル?ねぇ、リベルったら」


「ふへ?」


いかん。考えこんでいたようだ。僕は別に思考が0.2秒でまとまるような知的キャラじゃないから考えこんだら周りの声は聞こえないのです。ごめんよ兄さん。


「リベル、どうしたの?ボクがみえてたのって間違いだったのかい?」


「ううん、そういう事じゃないよ!これ見るの久し振りだったから、こんなだったなぁって思いだしてただけだよ。大丈夫」


ロイドさんはともかく、兄さんには僕が盗聴できるスキルを持ってるなんて知られたくない。

単純に引かれると思うし、兄さんが遠くに行ってしまうかもしれない。


「なあ、そんでこれは何なんだよ?これもお前のステータスか?」


「ステータスというよりスキルですよ。僕の録音スキルは元々こうやって操作してたんです」


「これで…操作?訳が分かんねえんだが」


「えと。この〇の所を押すと記録開始です。そしてこっちの■で停止。三角で直近に録った音が再生できます。まあ、僕のイメージが反映されてるだけなんで、他の人は違うと思います」


「いや、お前以外はいねえと思うんだが」


「流石に歴史の中に僕一人だけってのはおかしいですよ。探せばいると思います」


そう。流石におかしい。そうでなければ、転生した僕のチートが『録音』になってしまう。

『ステータス』も中々に凄そうだけど、僕は派手なのが希望だ。

大魔力マナ利用』かもしれないが地味そう。

本命は後からやってくるんだろう。多分。古来からそう決まっているはずだ。


「…ああ。そうだよな、おかしいよな」


ロイドさんも同意してくれた様だ。何故か遠い目をしてるけど。

家庭教師をしにここまできてくれているんだ。故郷にでも想いを馳せているのだろう。


「ねえねえ、それってボクにも触れるなかな?試しても良い?」


「うん。ここの〇かいてあるところね」


「ん。それじゃあ、録音っ!」


…うん、だよな。やっぱり録音開始されてない。

予想はしていたが、血が繋がっていても、どれだけ可愛く「録音っ」って言ってくれても、例え兄さんが姉さんだったとしても、ウィンドウには触れない。

なので僕が代わりに録音開始した。思考で操作にこんな利点があるとは…

騙してる感じになってしまったけど、多分バレないだろう。


「あー、あー。ねえリベル?これでボクの声が記録されてるの?」


「うん、ここの〇が震えてるのは、音を受けてるからだよ。録音出来てるね」


「ん。ふふ、ボクの声が録られてるんだね…」


「えと、兄さんはなんか録りたいのってある?母さんとかは自己紹介を録ってたけど。良ければ録って再生するよ?」


「…ううん。ボクはいいかな?それより、その、母さんの聞いてみたいな。大丈夫?」


「大丈夫だよ。母さんは恥ずかしがるかも知れないけど…じゃあ、再生するね」


もはや懐かしき母さんの自己紹介録音を流す。



『はじめまして。私はリベル・デイルートの母親、ペトラ・デイルートといいます。出身は王都、コルディスのレヴィアール家です。

…よろしくお願いいたしますね?』



「…ふふ、母さんの声だね。でも、なんだか緊張してるのかな?いつもと違う感じがするな」


「うん。多分こういうの初めてだったからじゃないかな?ほら、人って初めては緊張しちゃうもんね。だからだと思うよ」


「ん。そうかも」


うんうん。母さんが録音してた時は凄い姿勢良かったりしたもんな。


「おい」


ロイドさんが声をあげた。この人突然声出すよね。


「俺の分も録らせろ」


…なんだ、ロイドさんも興味津々じゃんか。



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