第55話 目的不達成

「すいません…

 気の利いたことも言えなくて…」


そう言ったヒロに、メグが言葉を返した。


「あなたなりの慰め方…だと分かる。

 あほすぎて、ちょっと落ち着いた」


メグは落ち着いたと言うが、涙は溢れ続ける。

覚悟したようにメグを言葉を出そうとした。

さらに涙があふれた。


「せめて…ヒック、苦しませずに…ヒック

 あなたの大魔法で…とどめを刺して」


悔し涙に顔をくちゃくちゃにして、メグは兄の姿をしたゾームを倒すことを決めた。


「…分かりました」


ヒロは、答えた。


周りを見ると、ほとんどのゾームが討伐されていた。

残るゾームは、ジュドーが相対する2体のゾームと、他に2体がまだ冒険者たちと交戦中のように見える。


その、残る全てのゾームに対して、ヒロは消失の魔法をかけた。

分子レベルで物体を分解する魔法である。

再生することは、不可能。


ヒロは、時間停止を解除した。


交戦中だったゾームは、一瞬で跡形もなく消えた。


技を出そうとしていたジュドーは、いきなり目の前からゾームが消え去ったことに驚いた。


「おい、急に消えたぞ!?

 メグ、何かしたのか?」


ジュドーがメグの方を見た。

メグは目を腫らして、兄の姿をしたゾームがいた場所を呆然と見つめていた。

ヒロがジュドーに答えた。


「私が、倒しました。

 今日は大魔法、使えちゃいました」


「すごいなヒロ!

 だが、はじめっからそれ、使えなかったのか?

 被害者が出ちまったからな…」


結果的に死者はゾームに突き刺された二名。

周りをみると、倒れている冒険者は他に四名いる。

息はあるようだが、血があふれており、重傷者のようだ。


ヒロの大魔法が初めから発動していれば、確かに死傷者はゼロだっただろう。

だが、戦い始めて対策やプロジェクトの成功が確認できないと大魔法が使えない。

つまり、ヒロの大魔法は、当てにはならない。

大魔法に頼らないプロジェクト運営は、これまで通り必要なのだ。


とは言え、今回はメグのハプニングがあったため、ヒロの大魔法が無ければもっと被害は出ていただろう。

ヒロはこの女神がくれた力に、もどかしさとともに感謝をした。


結局、暫定対策ではゾームによる死亡者及び重傷者を3人間以下にする、というプロジェクト目的は達成することができなかった。

メグの兄のこともある。


ゾームを抑えることはできたが、ヒロは喜ぶことはできなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る