第114話 魔人族との本格戦闘(その5)

 煙草の煙が揺らめき迷宮内の独特な臭いと煙草の臭いが交錯する。


 「貴様、煙草を吸いながらとは随分と魔人族を舐めきっているじゃないか……」


 「舐めるも何もお前がバカすぎるからだろ?」


 ジョセフは煽るのを辞めようとはせず、ゾッドを煽り痛めつけるのが楽しいとすら思えてきた。


 「ジョセフ君本当に性格悪いわね……」


 マリーは肩を竦め唖然としており誠はアハハと苦笑いしながら何も言えないようであった。


 「さてと、あんまり調子に乗っていると碌なことがなさそうだから止めを刺すか……」


 ジョセフは再度指をバキッボキッと鳴らし左拳に『スパーク』を一点集中させる。


 「貴様っ、いつの間に魔法を発動した!?詠唱どころか呪文名すら言っているところを見てすらいない!」


 ゾッドが呪文名を言わずに魔法を発動していることを指摘しマリーと誠はハッとした表情でジョセフに見蕩れていた。


 「細かいことはどうでもいいだろ?どの道お前はここで死ぬ」


 「ふざけるなぁ!」


 ゾッドは左手で地面に刺さった剣を強引に抜いたため切っ先の部分が折れてしまいそれでもジョセフを確実に殺そうと思いきり上に掲げ渾身を込めて振り下ろす。


 『スパーク』を纏わせた左手からは青白い電流が火花を散らし、ゾッドが振り下ろした剣とジョセフの拳が交わりお互いの力が押し合い風圧が生じ砂埃を立てる。一見ゾッドが優勢に見えていたのだがジョセフの『スパーク』は出力を普段20パーセント程度で発動しているのだが今は80パーセントの出力で発動していてゾッドの剣を『スパーク』から発せられる高熱を帯びた電流から飛び散る火花で融解させていた。


 「バカなッ!俺の剣が溶けているだと!?何故だ?何故俺が人間風情に……」


 『スパーク』の出力を80~90パーセントまで上げると融解しかけた剣はボキりとへし折れゾッドの顔面に直撃し『スパーク』から発せられる青白い火花で皮膚が爛れ始めイケメンだった顔立ちは面影を無くすほどまでに変形していた。


 ジョセフに殴られたゾッドはそのまま勢いよく吹き飛び壁へと叩きこみメキメキと音を立てゾッドを壁にめり込ませていた。


 「ほっ、本当に人間なのか……?」


 ゾッドはジョセフを睥睨しながら最後の力を振り絞るような声で尋ねる。


 「……人間だよ、一時期愛を信じられなくなったただの……」


 ジョセフは自分自身が人間であるのかすら分からなくなっていた状況でもあり、リサのおかげで愛を取り戻しかけていたのもまた事実だ。


 「詠唱も呪文名を言わずに魔法を発動できる人間なんて初めて見たぞ……ベル様ですら貴様のように何も言わずに魔法を発動することはできないってのに貴様は本当は魔物ではないのか?」


 「魔物なわけないだろ!そのベルって奴が何者なのか死ぬ前に教えてもらおう」


 ジョセフは壁にめり込んだゾッドを無理矢理張り紙を剥がすようにぞんざいに地面へと張り倒した。ゾッドは頑なにベルの情報を穿くことはな『スパーク』を纏わせた指で顎を強く押し込み自らの意思とは関係なしにベルの情報を喋らせた。


 「あのお方はかつて人間であった……正確には人間としての心を捨て理性を持たない魔獣のように非常で残酷にならざるを得ないと言ったところだ……それ以上は知らん!頼む、何でもするし貴様にも忠誠を誓う!」


 ゾッドは全てを自白し命乞いをする。


 「助かりたいのか?」


 「助かりたい!助かりたいです……!」


 「そうか……」


 ジョセフはそっけない態度でゾッドから距離を置き次の階層へと向かうべく茫然と立ち止まっている誠とマリーの元へと駆け付ける。


 「バカめ!俺を殺さなかったことが貴様の命取りだ!……んっ、いだぎやぁ!」


 ゾッドは左掌から最小出力ながら最後の魔法を発動しようとするのだが発動しようとした瞬間魔力は暴走し体中がブクブクと膨れ上がり肉体は無惨に飛び散り血飛沫をあげていた。あの時顔面に『スパーク』を纏わせた左拳で殴ったことにより脳細胞に全ての神経を破壊し肉体を破壊するようにジョセフが電気信号を送り込んだためだ。


 「俺が何もしないわけないだろ。一度敵となった相手を生半可な気持ちで生かす程俺は甘くはない……ベルと言う奴が人間でありながら魔人族を自称しているのは分かった」


 「ジョセフ、ベルのことなんだが……殺さずに神様のもとに連れていきたいんだがいいかな?」


 「……んっ?」


 「ベルの本名は鈴木徹彦といい僕達と同じ日本から来たんだ。神様はそんな彼を手違いで異世界に転移させたことを深く反省しているからなのかもう一度話し合いたいみたいだからなるべく戦闘するんだったら……」


 誠は急にベルと対話をしたいと意見を持ち出す。ジョセフは(そんなことをしながら戦闘できると思っていのか?そもそも魔人族を一撃で倒せないこととボスであることを考えるなら確実に手を抜いて戦えるわけがないじゃないか)と訝しげな表情で帽子の上から頭を掻きむしる。


 「それは無理難題じゃないのか?まずこのゾッドとかいう奴も本気を出さなきゃ確実に死んでいたかもしれない強さを持っていたんだ。ベルとか言う奴と呼称したいのならお前がやってくれ……」


 「誠にとっては至って真面目に頼みごとをしているのだろうがこっちは神様に特別な力を授かって魔力量が多いわけでもなく属性魔法の適正だって全てあるわけでもないんだぜ」


 ジョセフは如何せん先程のゾッドとの戦いで魔力量が半分以上減ったっていうのにそんな余裕持てるほどの力は有り余ってはいないからだ。


 そんなこととは裏腹に、ジョセフはリサにジンジャー、アイリス、テレサ、佐藤夏樹の反対を強引に押し切り迷宮で魔人族を討伐しに行ったのはいいのだがどのようにして帰った後に謝ろうかと帽子の上から頭をガリガリと左手で掻きむしりギリギリと歯を食いしばっていた。

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