第91話 ~番外編~兄がいなくなった日……

 兄が行方不明になった。


 私、綾野侑が義兄である綾野丈ことジョセフ・ジョーンズは私が部屋をノックせずに開けると瞬間移動でもしたかのように部屋から消えてしまったため、目をこすりもう一度目を開けてみるもやっぱり兄はいない。小学校の頃までは幼馴染の仁と兄、私達三人は毎日のように物語を作ったり絵を描いたりして遊んでいたんだけど中学になってからの私は兄とは疎遠になりかけ、兄が学校で虐められ不登校になっても何もできずにただひたすらオタクであることを隠しながら小説投稿サイトにひたすら執筆した小説を投稿していた。


 それでも兄は私のことを嫌うこともなく家族の一員として接してくれたのだけど私の中では兄は憧れでもあり恋愛の対象でもあった。当然兄からは「妹に恋するなんてのは某ラノベのエロゲーやってる兄妹だけだよ」と言われ相手にもされず信じてもらえなかったけど兄への恋心が冷めることはなかった。


 私が部屋に入った瞬間兄が消えたのを目撃した私はすぐさま下の階で眠っている両親を起こしに駆け付ける。電気も付けずに暗い廊下を、階段を降りる。


 「お父さん、お母さん!お兄ちゃんが……お兄ちゃんがいなくなったの!」


 私は声を震わせながら兄が一瞬にしていなくなったことを大声で伝える。両親は「また小説のネタか……」と唖然としており信じてくれず私は両親を強引に兄の部屋へと連れ込む。


 「私は見たのよ!私が部屋に入った瞬間お兄ちゃんが一瞬にして消え去るのをこの部屋で……」


 両親は兄の部屋の窓の鍵が開いていないか確認をするも鍵は閉まっており部屋から抜け出した痕跡はなくやっと私の話を信じてくれたみたいだ。


 「侑がライトノベル作家をしているからネタの為に私達まで巻き込んでいるのかと思っていたが嘘をついているようではないな……」


 そこから私は両親と家族会議を開き、兄が行方不明になったことをどうするか決めることにした。一つ目の案が警察に行方不明者届を出しに行くか、だが兄が一瞬にして部屋から消え去ったなんて話を信用してくれるはずもなさそうだしそれは却下となり二つ目は海外の親戚の家にホームステイするために留学したことにするかだ。


 何時間も寝る間も惜しんで結論づいた答えは留学したことにするだった。私としては嘘をつくのは好きではないが大事にするわけにもいかないのでそうせざるを得ないことを重々承知していた。


 私はベッドに入り後悔していた。兄に手を差し伸べることさえできれば不登校にもならず不良になって喧嘩の相手を必要以上にぶちのめして問題にもならずに済んだのに、罪悪感で胸が押しつぶされそうになっていた。


 学業と作家を兼業することに手いっぱいで兄の支えになれなかったことへの後悔のせいで眠れずにいた。私はどうせ眠れないのならと兄がいなくなったこと、兄の過去を元に小説を執筆しようとノートパソコンを開き執筆活動を開始する。


 兄の綾野丈が本当の兄でないことを知ったのは小学校高学年の頃だ。兄自身は物心つく頃には両親から聞かされていたみたいで私に言わないよう口止めをされていたみたいだ。


 私は小学校の頃から……いえ、幼稚園の頃から兄に恋心を抱いており両親からは「兄妹で結婚はできない」と言い聞かされており、ネットで兄妹で結婚する方法を調べていたのだがやっぱり兄妹ではダメみたいだったが従兄弟だったり義理の兄弟だった場合結婚できることを知ったのと同時期に兄が義兄であることが発覚し私にも勝機があると希望を見出していた。


 それなのに、兄はイギリスからやってきた留学生のエミリー・メイというまるで二次元から飛び出してきたのかと言わんばかりの美少女と相思相愛の仲になり私の席は一瞬にして取られてしまった。


 幼馴染の仁に関してはエミリーの双子の姉であるルーシーと結婚の約束までしちゃう仲に発展しちゃうしで幼馴染ですら相手が決まったようなものだった。


 兄は血の繋がりがないことを知っていながら私を選ばなかったことが私にとっては歯がゆい気持ちがあったけど私の大好きな兄が選んだ相手でもあり私が唯一兄を任せられると認めたエミリーと結ばれるのならと祝福したいとも思っていた。


 エミリーとルーシーがイギリスに帰った後も兄はエミリーのことをずっと考えていたみたいで私のことは一切眼中になく、中学生になる。


 中学になってから兄は髪と瞳の色が原因で教師から陰湿な虐めを受け、クラスメイトからも仲間はずれにされたりとしていた。ラノベとかマンガの世界なら確実にハーレム生活充実になってもいい程の美形の兄が何故このような仕打ちを受けなければいけないのか?何故兄がエミリー以外ののような女に辱めを受けなければいけないのか?私の腸は煮えくり返りその怒りを込めて小説をネットに投稿し始めるようになっていた。


 兄は同級生のアイドル的存在の女子に告白をされ付き合うことになったのだけどそれも全て仕組まれた罠で兄の心をズタボロにし不登校に仕向けるためにかわい子ぶっていただけだったのだ。


 アイドル的存在で誰にでも優しかったその女子は表面上は綺麗でも内面的にはかなり薄汚れていることに気付けなかった私自身にも原因がある。兄の心は純粋だった故に兄がとった行動はその女子を必要以上にぶちのめしたことだ。


 私はそれをただ黙ってみていることしかできずにいた。


 兄にとって中学になって初めてのデートだったのに傷つけられ人間不信となった兄は不登校となり、従兄弟のジョージとその親戚のジョニー、ジョナサンと学校をサボってはバンド活動に専念したりしており、家では筋トレだったり動画を見ながら格闘技の練習をしていたりと不良への道を歩んでいた。


 動画で覚えた格闘技と筋トレの成果を試すかのように毎度売られた喧嘩は買い、それが複数人だろうとプロの格闘家が相手だろうとも挑みそれも無傷で勝利していた。


 兄は喧嘩の相手は必ずと言っていい程必要以上にぶちのめし相手の精神を追い込むほど心に深い傷を負わせたりともう昔の面影は消え去っていた。


 あんなに優しかった兄をここまで狂わせた教師とクラスメイト達が憎い!


 兄はいつも喧嘩をする際昔のマンガのキャラみたいに指をバキッボキッと音を鳴らしていた。そんな兄でも弱い者いじめをするものはどのような理由があろうとも許すことはなく、虐めを楽しんでいる不良達には精神的苦痛を与えたりと残虐な一面はあったけど弱いものを痛めつけることだけはなかった。


 そんな過去を回想しながら私は執筆をしていると窓際から日差しが指しており時計を確認すると朝の五時になっていた。


 「今日は体調不良ってことにして小説の執筆活動にでも専念でもするわ」


 私は高校生になって初めてのズル休みデビューをし、キーボードに指を置き今現在私自身が思っていることを文字に変換し入力している。


 それに出版社に連載中の小説の原稿も仕上げなきゃいけないしそれも合間に仕上げなきゃね。私はプロットを見ながら文庫化ようの原稿を仕上げるために指の動きと脳の反応速度を上げ原稿を仕上げていく。


 今日は学校さぼるんだし思う存分気合を入れていこう。

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