第86話 清掃(その1)

 今回のクエストは街の清掃ということなのだが今のジョセフの容体を考えればまともに戦闘できそうにない。それはジョセフ自身一番分かっていた。


 『パープルサンダー』を無理に二度も使用した反動からなのか手の震えが止まらず倦怠感すらある。マリーに回復してもらったっていうのに何故だか自分の身体じゃないみたいな気がする。


 日本で喧嘩に明け暮れていた時だってこんなことはなかったっていうのに異世界に来てからというもの何度も死にかけるような戦いをしているからなのか戦闘力が以前よりもみなぎっているような感じすらするのだ。某バトル漫画の主人公のように。


 そんなことを考えながらジョセフは清掃を開始していた。


 冒険者ギルド周辺はゴミや汚れがかなり多く誰も掃除をすることが無いためいわゆるツケみたいなものなのだが清掃で金がもらえるってのはジョセフにとってはありがたいことだ。


 清掃をしているのは主に冒険者が宿泊に使っている宿で人手が現在足りないとかで急遽冒険者を派遣しなければいけない状態になったらしい。最近はリサの計らいで宮廷で寝泊まりしているがここまで宿の扱いが酷いと宿の人だけでは綺麗にするのは難しいだろうと思いながらジョセフは黙々とモップがけをしていた。


 まず冒険者達が寝泊まりしている部屋を隅々までモップで綺麗にしているのだが床に媚びり付いた汚れを取ろうにもシミになって取れなかったりと面倒くさいものだ。ベッドは女を連れ込んでいたからなのか独特な臭いが染みついているからなのかこれは選択しても取れるか分からないし本当にここをラブホか何かと勘違いしているのかと疑問に思ってしまう。


 この世界にラブホという概念があるかは知らないが少なくとも女郎などのような風俗業を営んでいる店はあるのだろう。


 以前ジョセフ達が色々とお世話になった宿屋をここまで酷く利用していたのかと考えれば少し腹も立つのだがどうせ女を連れて如何わしいことをするのならもう少しスマートにやってほしいとも思う。童貞のジョセフがどうこう言うことでもないのだが。


 「ジョセフさん、最近あなたがここの宿を利用しなくなってからというもの質の悪い冒険者が寝泊まりするようになってねえ……」


 「…………」


 宿のお姉さんが困りが顔でジョセフに愚痴を言い始める。まあ実際に清掃をし始めてこのありざまを考えれば愚痴の一つや二つ言いたくなるのは当然だ。


 「ジョセフさん達が寝泊まりしていた頃はテレサちゃんもいたからなのかもう少しおとなしいお客さんが寝泊まりしていたのに最近では品のないお客さんばかりだしこっちも商売上がったり下がったりて感じよ……」


 行きつけの宿屋に入った瞬間品の悪そうな冒険者ばかりで宿のお姉さんにセクハラ紛いのことをしたりとお世辞にも繁盛しているとは思えないのだ。

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