第32話 柿太郎、暴れる
柿太郎は誰よりも先に、おいじいさんとおばあさんに伝えなければと、谷からの道を急いだ。
ピジョーが命を賭けて伝えた『征服計画書』を見せなければならない。あのシラミ騒動は「村の蚤ヶ島化計画」の始まりにすぎない。蚤ヶ島新政府は、資源欲しさにこの村を征服しようとしているのだ。そのためには村人を殺すことも
かわいそうなピジョーを焼き殺したのは柿太郎の母親であった。
「おかあさんと戦わなければならない・・・」
柿太郎はおじいさんの家へと無我夢中で走った。
家には小汚い雑種のタローちゃんがいた。
「おばあさんたちは、どこに行った」
柿太郎は声を荒げて聞いた。突然、
「分かりません」
「分かりませんじゃないだろう! お前は番犬でもあるんだぞ」
タローちゃんは柿太郎の勢いに
「キャン、キャン」
弱々しい鳴き声を上げながらタローちゃんは言った。
「おじいさんはたぶん、八幡様のところです。おばあさんは、実は行方が分からないようで・・・。でもなんでそんなに怒るんですか」
「なに!」
柿太郎はまたタローちゃんを殴った。
「柿さん、もう止めて!」
ネコの和代が柿太郎の腕を
「なんだ! くそネコ!」
柿太郎が今度はネコの和代に襲いかかる。全身が毛なのでどこが髪の毛かはっきりとは分からないが、とりあえず髪の毛を掴み和代を振り回した。
柿太郎自身、事実を突然、目の前に突きつけられ悲しさと寂しさで混乱し、どうしていいか分からないのだ。この状況をどうしたらいい。そのうえ頼りにしていたおばあさんがいない。柿太郎のすべてが爆発していた。
「柿太郎、もう止めろ」
そのとき弁天様の声がした。弁天様は柿太郎の腕を押さえつけて静かに言った。
「柿太郎、これが「もっこ」だ」
弁天様の後ろには八幡様とおじいさんが立っていた。
(つづく)
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