舞先生の勘と裏切り
んっ!
舞先生は何よりも自分の勘は信じている。
ダンジョンレベル八十台をクリアし九十台を死なないで生還できた一流の勘だ。
その勘で、いつも助かってきたし、仲間の窮地も救ってきた。
その勘がいっている。何か良くないことが起こっていると。
今舞先生は仲間であり部下の青霧隣と桃香苺と共に今回のフェイルゲームの対策をしていた。
攻撃側や防御側じゃなくても、攻撃側の思惑を読みとり今回の自陣営のスタンスを決めていく。
今は情報部から来た情報を精査し対策を立てている最中だ。
「んっ、どったの~舞チャン」
「どうされたのですか舞さん」
舞先生の違和感を感じ取り心配したように隣と苺が問いかける。
今の舞先生の表情を見て、良くないことが起こったと分かっているからだ。
「行くぞ」
舞先生は、会議を中断し、足早にとある場所に向かう。二人は尋ねたりせず、黙って後をついて行く。
十分ほどでついたのは顧問をしているクラブの練習場。
開けたとき、舞先生は全てを悟った。
居るべき人物がいない。
「眼鏡ちょっとこっちに来い」
何時も冷静な舞先生には似つかわしくない焦ったような感じ。
本来今日は舞先生が来る予定はなかったため、不思議がりながらも先生相手に呼び名を注意できず、走って種次は舞先生の元につく。
今日は何時にも増して圧が強かった。
「御影はどうした」
「御影は契約者のフェリスの依頼で事務科で新たに開発された、相性型ダンジョンシムテム『ランダム魔法陣』のテスターとして、今日」
「隣!、岬に連絡だ。あの馬鹿をここに連れてこい」
被せるように舞先生の怒号で。
「畏まりました」
いち早く隣が行動に移す。
ただならぬ雰囲気で、なんだなんだとクラブメンバー達は練習をやめ遠巻きに舞先生の元に向かう。
本当はもっと近くによって舞先生に話を聞きたかったが、抑えているが、溢れ出てしまう濃厚な殺気に近づけなかった。
五分後岬がやってきた。顔は青を通り越して白く、まるで魔女裁判にかけられる魔女のようだった。
「言い訳を聞こう」
ここにいる誰しもが思った。その言葉は『最後に残す言葉は』に変換されて。
「あの、舞さん本当にランダム魔法陣」
「嘘を吐くな。人の魔法識別解析は後五十年はかかる、たかが学園如きに用意できるはずはない。御影をどこのダンジョンにやった」
「それは」
舌が粘つく、口が鉛のように重い、冷汗が止まらない。
いつもの口調がないのは激怒している証拠だ。
岬は舞先生の性格は分かっていた。裏切り者にはどういう事をするのかを。
「私は気が長い方ではない。拷問にかけられたくないのなら、『あの子』らに制裁を加えたくないのなら早く言え」
次言わなければ、間違えなく拷問にかけられる。
舞先生は言った事は必ず実行する。たとえ仲間でも。
しかし、言えば待ち受けるのは『死』だ。
それぐらいの裏切り行為をした自覚はあった。
岬は決心する『言おう』と。私の生きる目的の『あの子』らに迷惑をかけるぐらいなら。
「知のダンジョン・・・・・・レベル四十九」
「駄目です舞さん」
「駄目だよ~。冷静冷静~」
岬の喉を狙った舞先生の警鞭の突きは、苺と麟によって止められた。
二人は参謀でありストッパー役だ。
舞先生は荒くなった呼吸を整え、数分で幾分か冷静さを取り戻す。
「まさか私の派閥に裏切り者がでるとは思わなかったぞ。恩を仇で返され、部下に手を噛まれるとは舐められたものだな。そして何より許せないのは、なぜ御影を狙った。星の奇跡を御影にもらっているのは知っている。数少ない貴様の素をさらけ出せる、いい関係を築いているものだと思っていた。そんな人物を嵌めるとはな」
仲間でも一部以外は、岬は丁寧な口調で、人形のような表情で接している。
素をさらけ出せる人物は、かなり気を許した証拠だ。
岬は幼少期から五年前まで、今日子よりももっと過酷な状況で育った。
当時は人も人以外も信じない。頼れるのは自分だけだった。
そんな自分を助けてくれたのは、癒杉舞さんだった。
居場所をくれ、満足な食事、安全な寝床、そして『あの子』達との出会い。
そして私は救われた。
舞さんはそんなことはないが、その派閥内では、邪険や差別されることも多いけど昔と比べれば雲泥の差だ。
そうして自分の素を一部しかさらけ出せないまま、分厚い心の壁を身に纏い、岬は出会った。
自分よりも深淵の闇を持つ男に。
最初から自分の素をさらけ出せたのは初めてだった。
ほんとはわかっていたはずだった。
馬鹿だ私は・・・・・・ほんとにどうしようもないほど大馬鹿だ。
甘い誘惑に引っかかり、御影に甘えてしまい、最悪の選択をした。
後悔しても遅い。セーブもロードもなく、時を戻すことも出来ない。
選択は一度っきりなのだから。
「お前には目をかけていたのに残念だ。普通の業務に戻れ、処分はおって知らせるぞ。あの子達にも最後の別れを言うぐらいの猶予は与える。だが逃げるなよ。逃げれば、どこに行っても必ず見つけだし殺すぞ。失せろ」
「すいませんでした」
岬は深々と頭を下げ、この場を後にした。
流れ出る涙の道を残して。
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