心ダンジョン:レベル二十


~心ダンジョンレベル二十~


 御影は、これまで後回しにしてきた心ダンジョンに来ていた。


 他のダンジョンは、知ダンジョンと心ダンジョン以外レベル二十をクリアしており、知ダンジョンというか、昔から謎解きはからっきしで、種次はこういうダンジョンが得意そうだなと思いながらも一人で入る予定は今のところない。


 心ダンジョンを後回しにした理由は、時間がどれぐらいかかるかわからなかったからだ。


 舞先生から聞いた話によると、個人差が一番あるダンジョンで、他のダンジョンと違い、人のルートや攻略情報は意味がなく、実力は関係なく精神の強さが鍵となる。


 御影が来たダンジョンの平均クリア時間は半日程度で、昨日、ブツクサ言う、事務科主任、クラブ選任受付係の虹野岬にお願いして(報酬は請求されたが)、朝早くダンジョンに入った。


 心ダンジョンは一律洞窟型で、暗闇に松明の明かりが等間隔で灯されているが、全体的に薄暗く、御影は一直線の廊下を歩いていく。


 まるで、精神の回廊みたいだ。


 現在過去未来、様々な事柄を反芻するかの様な作りだと御影は思う。


 最も、この程度では何も感じず、御影はすたすた歩いていく。


 やがて、一つの扉の前にたどりつく。


 真っ白な扉に壁は真っ赤。


 何が起こるか。


 御影は好奇心を胸に、扉を開く。


 中は六畳程の何もない空間で、明かりもなく真っ暗だ。


 中に入ったと同時に扉はかってに閉まり、御影の頭の中に直接響いた。


「試練に打ち勝って見せよ」


 あらがいようもなく、御影は意識を失った。


 目を覚ますと、鎖に繋がれていて、力が入らず、魔法も気も使えない状態だった。


 おそらく精神だけここに運んできたのだろうと御影は思う。


 そしてなにが起こるかは、状況を見て分かった。


 おそらく、拷問系の心ダンジョンだと。


 岬の説明では『比較的簡単なダンジョンだから、やっとHクラスに昇格した最低辺のご御影でも大丈夫なんじゃないでしょうか』と口元にを浮かべてながら言っていて、嫌な予感はしていた。おそらく、同じレベルで一番人気のない心ダンジョンの一つなのだろうと。


 あの野郎と岬に対し悪態をはき、舞先生が言っていた説明を思い出す。



「心ダンジョンでは試練と言われる四つのタイプがあるぞ。


〇拷問系

 抵抗できない状態で、肉体的苦痛を伴う試練をかせられる。


〇トラウマ系

 自分が感じる嫌な映像を見せられ、精神的苦痛を伴う試練をかせられる。


〇パラレル系

 自分の居心地の良い世界の主人公になり、記憶を封印され、都合の良いように書き換えられ、それを打ち破る精神的強さが試される。


〇特殊系

 レベル八十以上の心ダンジョンに見られるもので、それをクリアした例は少ないが、三つをミックスしたもので総合的な心の強さが試される。


 の計四つだ。クリア条件はまちまちだが、レベルが低いと条件は緩く、高いと条件は厳しくなるぞ」




 おそらく、岬は俺が天才肌で、そんなに重度の攻撃をうけたことがないと思って拷問系をチョイスしたのだろう。


 実際、新聞部クラブの白波今日子から聞いた話によると、全学科で心ダンジョンは人気がなく、特に指揮科の生徒の大半は心ダンジョンをスルーし、少数の者も拷問系は避けている。


 残念だったなと、岬の事を心の中でせせら笑う。


 壁に貼り付けられている状態で下に目線を移すと、だんだんと液体状のものが流れ込んでいて、油のようなな匂いだった。


 深さ三十センチほどで流入が止まり、直後また声が御影の頭の中に響く。


「火の恐怖にあらがい打ち勝って見せよ」


 向こう側の壁にタイマーが出現し、時間は一時間だ。


 おそらくタイマーが起動したら、何かしら起こるのだろうと余裕の表情で御影は考える。


 火というのは人以外では恐怖の象徴で、根源的に近づかない様になっている。だから、野外で寝るとき火を絶やさないようにしているのだ。


 こんな状況で、普通なら大なり小なり動揺するものだが、御影が全く動じない。それは、こういった拷問系は異世界で腐るほど受けてきたからだ。


 ヴァーチャルではなくリアルに。


 三十秒ほどたって、タイマーが起動し向こう側から炎がたちこめてきた。


 恐怖感を煽るように徐々に徐々に近づいてくる。


 御影は退屈そうに炎を見る。来るなら来いと。


 三十分近く経ち、御影の足下に炎が到達する。


 精神体だが、五感は本物同然で、熱いものは熱い、普通ならあまりの熱さに足をばたつかせ、そこから逃れようとするが、御影はぴくりとも動かない。


 炎に意志があるのか分からないが、なめるなといった感じで、じっくり炙ってやろうとしていたのが一転、御影の全身が炎に包まれた。


 全身を焦がす火傷の痛みよりも、まず御影が感じたのは懐かしさだった。


 肉の焦げた匂い、全身が焼ける感覚。炎と一体化するイメージで御影は心地よさそうに目を閉じる。


 久しく忘れていたこの感じ。ここに来てから教えることばかりで、異世界でも帰る前の一年間は忙しく、自分をここまで追い込むことはなかった。


 やはり、もう少し鍛錬を厳しくするか。


 御影は自分用の鍛錬メニューを考えてる間に試練は終了した。

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