どうあがいても革命〜もしかしてJKはスローライフな余生は送れない!?〜

変態ドラゴン

第1話 プロローグ

「ジュリア・スチュワード、今日この場で持って君との婚約を破棄する」


 壇上の上に立った金髪碧眼の青年は凛とした声でそう告げた。

 この国において国王に次いで権威を持つことを示すバッヂが照明の光を受けてキラリと光る。

 ヘンリー・フォン・アーノルド王太子。

 その名を知らぬ者はおらず、国民からもその甘いルックスと人懐こい笑顔で支持を集めている。


 彼が視線を注ぐ先、もう一つのスポットライトには真逆の人物が立っていた。

 スチュワード公爵家の令嬢、ジュリア。

 鴉の濡れた羽のように艶々とした黒い髪をツインテールにし、さらに髪の先をカールさせるスタイルは彼女のトレードマークだ。


「君の悪事は全てお見通しだ。今、素直に自分の罪を白状するなら追放だけで済むように取り計らってやらんこともない」


 その言葉に、周りの貴族が「甘すぎる」「極刑を!」と騒ぎ立てた。

 その場にいる誰もが、件のジュリア・スチュワードに対して並々ならぬ怒りを抱いていた。

 それは義憤であり、貴族としてあるまじき態度を繰り返す傲慢な令嬢の存在を許してはならぬという憎悪を伴っている。



 曰く、己の保身のために無実の少女を冷遇したという。

 曰く、その少女が『救国の聖女』であると分かっても己の罪を認めなかったという。

 ーー果てには、その少女を姦計を用いて殺めようとしたという。



 非難の視線を一身に浴びた渦中の人物は、整った鼻梁を一切歪めることなく、ぴんと伸ばした背筋を維持したまま壇上に上がる。

 この国の貴族の頂点、王家に次ぐ権力と領地を持つスチュワード公爵を父に持つ彼女はまっすぐに目の前に立つ己よりも上の身分であるヘンリー王太子を見据えた。

 ほんのりと桜色に色づいた唇を開け、豊かな胸が膨らむほど息を吸い込むと一気に捲し立てる。


「はい、そうです。ヘンリー殿下の仰る通り、私はファラダリア伯爵令嬢とキャラレーゼ伯爵の暴走を止めることができませんでした! 全ては私の責任ですわ、ですのでどうかお二人への処罰は……ううっ、その分私に加算しても構いませんからぁ……!!」


 先ほどまでの凛とした表情はどこへやら、生意気そうな釣り上がった目からは涙がぼろぼろと溢れては零れ落ちる。

 『親子揃って国の恥』『他人に頭を下げたら死んでしまうタイプの人間』と影で罵られていたスチュワード家の人間とは思えないほど、哀れで情けない少女の姿がそこにあった。


「な、なにぃ!? あのジュリアが自分の非を認めた、だとッ!!」


 これには、ジュリアの本性を間近で見てきたヘンリーもビックリ仰天。

 思わず素で狼狽して、頭の中が真っ白になってしまう。

 その間にもヘンリーの足元にジュリアは追いすがり、抱きついては伯爵令嬢への恩赦を嘆願する。


「どうか、どうか五親等に至る処刑だけは!!」


 そのジュリアの嘆願を聞いた貴族たちに動揺が走る。


「ご、五親等ッ!?」

「いくらなんでも五親等処刑は……ッ」

「ぼ、暴君だ……暗黒の時代、到来ッッッ……!」


 それぞれが顔を見合わせ、すわ明日は我が身かと恐怖に体を震わせた。

 その不穏な空気を察知したヘンリーが弁解するべく口を開く。


「なっ、ち、違うッ!これはこの女が勝手に……!!」

「あぁぁあぁぁあッ!ヘンリー殿下ァ、恩赦を、恩赦をッ!!私はどうなっても構いませんからァッ!!」


 ……その弁解をかき消すようにジュリアが悲嘆と絶望の悲鳴をあげる。

 その他人を庇う姿に数人の貴族や、件の伯爵家に関わる人間は感心したようにため息を吐いた。


 やがて、ジュリアに向けられていたはずの非難の眼差しはヘンリーに向き始める。


「あんなに嘆願しているというのに……、ヘンリー殿下には人の心がないのか!」

「どんな理由であれ、令嬢の涙を拭わぬのは紳士としてあるまじき行為」

「罪を認めているというのに、晒し者にするなんて酷い……! 悲しすぎて、涙と震えが止まりません……」


「えっ、えっ!?僕?僕が悪いの!?」


 気が動転したヘンリーにこの混乱を落ち着けるだけのリーダーシップを発揮できる精神力はなく、ヘンリーを非難する声と擁護する声の二つにパッキリと分かれる。


「おい、お前今俺の家を侮辱したなッ!」

「そっちこそヘンリー殿下を、王家を侮辱しただろうッ!」

「「決闘だ!」」


 口論は取っ組み合いの喧嘩へ容易く発展し、それぞれが剣を抜かないまでも血を流し合う決闘騒ぎまで起こり始めた。

 会場はもはや収拾がつかないほどの大騒ぎとなり果て、駆けつけた騎士団によってその場は仲裁された。

 本来開催されるはずだった舞踏会はお開きとなり、それぞれが不燃焼となったまま屋敷へと戻る。




 この騒動を、のちの歴史学者は著書においてこう語った。


 ーーこれこそが、民主主義の萌芽であり、ジュリア伝説の始まりである、と。

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